くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「MEN 同じ顔の男たち」「ラーゲリより愛を込めて」

「MEN 同じ顔の男たち」

さすがA24、とんでもないファンタジーホラーでした。とにかく、画面が抜群に美しい。ロンドンの室内のオレンジ、郊外の邸宅の室内の赤、そして森の緑、目が覚めるほどの色彩に目を奪われます。しかしながら、その不思議なファンタジックな不気味感が次第にというかクライマックスに向かって一気にグロテスクに変身していく、その陶酔感を楽しむ映画だった。主人公の心理風景を映像にしたのかもしれないが、呪いでも化け物でもないオリジナリティ溢れる恐怖映画とういう感じでした。監督はアレックス・ガーランド

 

夕陽が差し込んだオレンジ色のロンドンの部屋、主人公ハーパーがゆっくりと窓辺に向かうと、上から一人の黒人の男が落ちてくる。いきなりのサプライズで映画が始まります。歌声が流れる中場面が変わる。ハーパーはロンドンから四時間近く車で走った郊外に昔ながらのレトロな邸宅を借りることにした。オーナーのジェフリーが室内を案内するが、ハーパーは一目で気に入ってしまう。真っ赤な照明が生える室内と外に広がる美しい緑、そして築五百年と説明を受けるのも納得できる趣味の良い室内の装飾に惚れ込んでしまう。ジェフリーは少し離れた建物に住んでいるからと言葉を残して帰っていく。ハーパーは友人のライリーに電話をするが、Wi-Fiのつながりが少し悪い。

 

一人で近くの森に出たハーパーは、奥まで続く大きなトンネルの前に出る。そこで声を投げると何度も反響していくので、つい、次々と言葉を投げ、ゆっくりとトンネルの中に進んでいくが、出口のあたりに人影を見かけて逃げてくる。そのまま道が行き止まりになり、無理やり斜面を登って広い草原に出てきたハーパーは、その緑の美しさに目を奪われる。ところが草原のそばに何やら人形のような物が立っていたので急いで家に帰る。

 

ハーパーはライリーに電話をして室内を案内し始めるが、ふと気がつくと、全裸の男が庭に立っていた。ハーパーは、恐怖を覚え、警察に連絡をするが、男は家に入ってこようとする。駆けつけた警官に取り押さえられた男は、どうやら危険はない浮浪者ではないかと説明を受ける。

 

夜、ハーパーは近くのバーに立ち寄る。そこで、ジェフリーに会い、警官もやってきたが、逮捕した男は特に問題もないから釈放したという。呆れてしまったハーパーは夜道を家に帰る。翌朝、教会へ行ったハーパーは、面を被った少年と会う。直後司祭と会うが、司祭の言葉にカチンときたハーパーは自宅に帰る。

 

夜、庭に警官が立っていたので、出てみると、警官は消え、ハーパーが家に入ると、窓ガラスを割って何かが迫ってくる。家に押し入ろうとしてきたので怯えていると、ジェフリーが飛び込んでくる。カラスが窓を突き破って飛び込んできていた。ジェフリーが庭を調べるが何もいない。ハーパーが家に入ろうとすると、裸の男が現れ、たんぽぽの綿毛のようなものをハーパーに被せる。家に入ろうとしてくるので、郵便受けから手を入れてきた男の手を包丁で刺す。ライリーに連絡をし、ライリーがこちらに向かうと告げてくる。

 

男は包丁で引き裂かれながら手を抜く。ダイニングでは、ジェームズが殺したカラスに面を被せて教会で出会った少年がいた。少年の手は裂けていた。かくれんぼしようというのでハーパーが10を数える。突然、司祭が現れる。司祭の手も裂けていた。ここまでくると完全に幻覚幻想の世界である。ハーパーは必死で車で逃げようとしてジェームズを轢き殺してしまう。ところがジェームズは車に乗りハーパーを迫ってくる。

 

必死で逃げたハーパーハー家に入るが、裸の男が庭にいた。そして足を開き人間を産み落とす。その人間もまた足を開いて人間を産み落とす。教会で出会った少年が生まれてきてまた背中から人間を産み落とす。産み落としながらハーパーはダイニングに追い詰められていく。最後は口から人間を産み落とす。それはジェームズだった。まあ、だいたい予想はついたが、それにしてもグロテスクです。ハーパーはジェームズに何をして欲しいのかと問いかけると、「愛が欲しい」と答える。夜が明ける。駆けつけたライリーは庭に座るハーパーを見つける。こうして映画は終わる?

 

自分の行動からジェームズを自殺に追い込んだ罪悪感が幻覚となってハーパーに襲いかかってきたのか、それとも、世の中の男は皆ジェームズ同様にクソな生き物ばかりで、それがこういう化け物のような形でハーパーに襲いかかってきたのか、いずれにせよ、女性蔑視、女性迫害を映像にした感じの相当にブラックユーモアに満載な映画でした。元夫のジェームズ以外、ジェフリー、少年、司祭、などなどは皆ロリー・キニアという俳優が演じているという不気味さも面白い。とにかく画面が綺麗なのですが、クライマックスの出産シーンの繰り返しは流石にグロテスクで、途中から笑ってしまいます。もう少しラストの処理が鮮やかだったら傑作ですと感想書けたかもしれません。でもそういう映画なのだと思うと面白かった。

 

ラーゲリより愛を込めて」

全く期待していなかったので、ラストは思い切り泣いてしまいました。シベリア抑留されてからの展開は普通なのですが、終盤のほんのわずかがなかなか観客を引き込んでくれます。あそこでやめとけばそれなりの出来栄えだったと思うのですが、その後のエピローグとチグハグなテーマ曲で全ての感動が吹っ飛んでしまいました。結局凡作となったのは残念。監督は瀬々敬久

 

満州ハルピン、満州鉄道に勤務する山本幡男の家族が結婚式に出ている場面から映画は幕を開ける。時は1945年、すでに敗戦が明らかになり、山本は家族と共に日本へ帰る準備をしていた。ところが、ソ連が突然参戦してきて攻撃が始まる。山本らも慌てて逃げるが、途中、幡男は負傷してしまい、妻のモジミと子供たちは先に港へ行く。幡男はソ連軍に捕まりシベリアへ向かう列車に乗せられる。そこで、松田という引っ込み思案の青年らと知り合う。

 

シベリアの収容所へついた山本らは、元日本軍の上官相沢らに命令されながら作業をする。何事にも前向きな山本の生き方に松田も相沢もは影響を受け始めるが、この辺りの描写が実に弱い。まもなくして、帰国することになり港へ向かう列車に乗せられた山本らだが、一部はなぜか途中で下車される。その中に、相沢、松田もいた。

 

共産主義者というレッテルを貼られ25年の懲役を申し渡され働かされる山本は、かつての上司原と出会う。さらに、足が悪く字の読めない新谷とも出会う。原や新谷も山本の影響下でどんどん明るさを取り戻していく。この辺りの描写も実に弱い。ところが、山本の体調が悪くなり、収容所の医師では診断できないことがわかり、松田らはストライキを起こして山本を大病院へ送り出すが、戻ってきた山本にはがんが宣告されていた。

 

余命いくばくかとわかった原たちは、山本に遺書を書かせることにする。しかし、ソビエト軍の検閲が厳しく、遺書も没収される恐れがあった。まもなくして山本は亡くなる。日ソ国交回復した年、原、相沢、松田、新谷らも帰国することになる。山本の帰りを待つモジミのところにある日、原がやってくる。山本の遺書を届けにきたという。ソ連軍に没収される恐れがあるので、遺書を四人で分担して覚えてきたのだという。こうして、原、松田、新谷、相沢と順番にモジミの元を訪れるようになる。このクライマックスは涙が止まりません。時が経ち2022年、山本の孫の結婚式、山本の息子がスピーチする場面で映画は終わる。このエピローグは完全にいりません。

 

抑留されている場面までが本当に弱くて、胸に迫ってこない。心理描写が不十分なのか、なんなのかはともかく、その辺りを相殺してクライマックスの遺書を読み上げる場面は泣きました。ただ、その後のコロナ禍を思わせる蛇足のエピローグは絶対いらないと思います。それが残念。まあ、瀬々敬久監督、生活のための仕事だったかなという出来栄えでした。