くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「告白小説、その結末」「ガザの美容室」「死の谷間」

kurawan2018-07-02

告白小説、その結末
これは素晴らしい心理サスペンスの傑作。散りばめられた伏線が所々でほころびながらラストシーンで一気に全てが明らかにある鮮やかさは絶品でした。監督はロマン・ポランスキー

人気作家デルフィーヌの出版イベントのサイン会から映画が始まる。次々と並ぶ読者にサインして答えているデルフィーヌの疲労も頂点になり、途中で中断、帰ろうとすると1人の女性エルがサインを求めてくる。しかし、丁重に断り、その後のパーティに出かけたデルフィーヌは再びエルに出会う。

ここから何かおかしいと気がつくのだが、次の作品へのプレッシャーから、その支えを求めていたデルフィーヌは次第にエルと親しくなる。しかも、創作のためのメモを書いていたノートをかばんの破れで失ってしまい、ますます自分が追い詰められて行くのである。

デルフィーヌは夫フランソワとは別居生活をしていて子供達とも電話での会話を続けていた。ただ、それはお互いの生活の自由を守るための別居でもあった。

しかし、次第にデルフィーヌの生活に分け入ってくるエルは、たまたま住まいが向かいで、その部屋を追い出されたからとデルフィーヌの家に住むことになる。しかし、どこか危険な空気を感じ始めるデルフィーヌ。それでも心の支えを求めて同居を続ける。

しかし、あまりに干渉してくるエルの行動に、とうとう彼女を追い出してしまうが、間も無くしてデルフィーヌは階段から落ちて骨折してしまう。そこへ駆けつけたのがエルで、エルは自分の田舎にデルフィーヌを迎える。

デルフィーヌは次の自分の作品にエルの生涯を書こうと決意、エルの身の上話をさせるように仕向けたと夫に連絡するが、その危険をフランソワはデルフィーヌに語る。

しかし、エルはどんどんデルフィーヌを束縛していき、しまいには彼女に毒を盛って衰弱させていき始める。身の危険を感じたデルフィーヌは必死の思いで脱出、道端で脇の溝に転げ落ちて、翌朝発見される。そして、デルフィーヌが出版した新作は大絶賛、大ヒットし、再びサイン会のシーンになり暗転エンディング。

エルはデルフィーヌの作り上げた幻想の人物だったのか。その解釈が間違っているかはともかく、彼女の幻想が作り上げたものと知れば様々なところの辻褄が会うのも確かだし、これを現実の人間とすると、かなり嫌な展開の作品になると思うので、私は、主人公デルフィーヌが人気作家の繁忙と次回作のプレッシャーの中で自分が作り上げたものとして鑑賞したいです。その意味で散りばめられる伏線が素晴らしかった映画と言いたいと思います。


ガザの美容室
完全な密室劇で、人物に当てるライティングやカメラワークが優れている作品でしたが、流石にパレスチナやイランの話はちんぷんかんぷんなので前半眠くなってしまいました。監督はタルザン&アラブ・ナサール

一人の少女が外に出たいと母親に訴えるが断固拒否する母。パレスチナ地区ガザ、この母が経営する美容室に女性たちが集っている。一人は結婚式前のセットに、一人は髪を切ろうか迷っている。また一人は年下の男たちを手玉にとっていると自慢している中年女、また一人は神に使える女性、あるいは妊娠中の女性などなどである。まるで社会の縮図のようである。

この中の女に一人に執拗に思いを寄せる若者が、嫌がらせのように外にライオンを連れて居座っている。

ところが、突然、外で紛争が始まる。どうしようもなく美容室の中に足止めされた女たちの会話劇が続くのが本編。外では激しい銃声や爆発音が続き、中では女同士の身の上話などが展開、やがて、男どもの執政への非難が持ち上がり、女同士ならこうするのにというような物語も始まる。

そして外で待ち伏せていた男が大怪我をして美容室内に担ぎ込まれるが、間も無くして政府軍の制圧が済んだのか、兵士たちが男を連れ出してしまう。

ライオンとその男が息をひきとるカットでエンディングだが、密室劇の面白さだけを見れば、巧みなカメラワークとライティング、外の音響効果のリズムなどはうまくコラボされていたと思うが、物語のテーマ性は流石に入りきれないところがあり、素直に退屈だった。


死の谷間」
久しぶりの核戦争後の終末物語だったが、妙なキリスト教的思想が全体を覆っていて入りづらい作品でした。ただ、全体の空気は非常に文学的な格調の高さを見せる演出で絵作りも丁寧でしっかりしているのは評価できるのではないかと思います。監督はグレイグ・ロベル。

一人の女性が防護服を着て品物を集め、自宅に戻ってくるシーンから映画が始まる。核戦争後、世界が死滅したらしいが奇跡的にこの谷が助かっていて、この女性アンが犬と暮らしていた。

そんなある日、一人の男性ジョンがやってくる。汚染された滝壺で泳ぐ姿に警告して、助けてやり一緒に住むことに。自分以外の生きた人間の登場に安堵と希望を見出すアンだが、男女の関係になるとこれからの接し方が変わるからと抱こうとしないジョンにかすかな不満もあった。

やがて、ジョンの体も回復するが、しばらくしてもう一人白人のケイレブが現れる。こうして三人の生活が始まるのだが、男二人に女ひとり、当然のさりげない確執が生まれ始める。

しかし、アン父が作った教会の材料で、滝壺で発電をするシステムを作り、電気が手に入ることになる。その作業の中、ジョンはもしかしたらケイレブが足を滑らせたのを助けず殺したかのシーンを挿入、結局ジョンとアンの生活になるが、どこかアンの心は揺れたままというムードでエンディング。

キリスト教の教訓が前面に押し出された作品で、アダムとイブ、兄弟の嫉妬、教会の材料で電気を作り出すなど、これ見よがしのエピソードで綴られている。それでも画面は本当に美しく、さりげない静物の配置も綺麗で文学的。まぁ、普通の作品でした。