くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「グリース」「最初で最後のキス」「魔術師」

kurawan2018-08-07

「グリース」
ロードジョーで見て以来だから40年近くぶりに見ました。映画の出来栄えは普通なのは初めて見たときと変わらないのですが、大好きな映画の一本です。どの歌もついつい口ずさんでしまうし、ラストシーンに至っては踊りだしたくなってしまいました。監督はランダル・クレイザー。

「慕情」の名曲で始まるオープニング、そしてこれ見よがしなピュアなラブシーンの後、物語はライデル高校へ。主人公ダニーはこの学校の不良グループのリーダーで、仲間の手前、ひたすら粋がって悪ぶっている。しかし彼は夏休み、一人の女性サンディと出会い恋に落ちていた。それがオープニング。

父の仕事の関係でライデル高校に転校してきたサンディは、女性グループピンクレディズのメンバーにダニーを紹介され、そのあまりのギャプに失望。しかし間も無くして二人はさりげなく付き合い始める。

不良然としたダニーといかにもお嬢さんタイプのサンディはことあるごとにすれ違いかけるにが本編。1950年代の空気感のあるポップな音楽とダンス、そそてエピソード、能天気と思われるくらいの清々しい明るさの高校生たちの姿がとにかく見ていて心地よい。

やがて卒業の日、最後のパーティで、サンディを忘れられないダニーはいかにもお坊ちゃん風の格好に変身、最後の勝負をかけようとするが、そこに現れたのは全身皮ジャンに身を包み、派手なパーマネントをかけ、いかにもいけてる女に変身したサンディだった。ダニーは思わず上着を脱ぎ、サンディを迎え入れ、クライマックスのダンスシーンへと向かう。このラストを見るだけでもこの映画の値打ちがあるというほどワクワクするシーンです。

そして二人を乗せた車は空を舞い上がりエンドクレジットが被ってくる。いかにもな展開とラストが非常に古臭く見えなくもないですが、古きアメリカンテイストがそこかしこに散りばめられ、映画づくりのコンセプトも、懐かしい香りがして、アメリカ映画はかつてこんなに楽しかったのになぁと感動してしまいます。

若くて可愛らしい頃のオリビア・ニュートン・ジョンがとってもキュートだし、にやけたジョン・トラヴォルタもいい。好きな映画と鑑賞する映画というにはやっぱり違いますね。見にきてよかったです。


最初で最後のキス
これはなかなかの傑作でした、現代的な色彩感覚と感性で描く物語ですが、ほんの些細なすれ違いから起こる悲劇をこれ以上ないほどの繊細な演出で紡いでいくのは、絶品というほかありません。監督はイバン・コントロネーオ。

図書館で本の整理をさせられているブルーの姿から映画が始まる。彼女は25年後の自分に手紙を書いていて、その語りで物語が展開する。外に出てバイクに乗り家に向かう。途中の壁に「ブルーはヤリマン」と書かれている。彼女をじっと見つめる一人の少年アントニオ、彼はバスケットボール部にいた。カメラはブルーとすれ違って、この学校にやってくる一人の少年ロレンツォを写す。

彼はゲイで、彼の派手なシャツに書かれた蝶がアニメになって飛び回ったりする。学校に着くと、メガネをかけ、ダンスをし、人々の注目を独り占めにするがそれは妄想であるようである。

教室の入ると、周りからゲイだと囁かれるが、クラスで浮いているブルーとすぐに仲良くなる。ロレンツォはまたアントニオが好きだった。やがて三人は一緒に遊ぶようになるが、それぞれの家庭は色々複雑なようで、ブルーたちもどこか周りから浮いている存在だった。

三人はクラスの女の子三人を中傷したり、アントニオのクラブの男性の裸を撮った動画をアップしたりする。ブルーには人気者の彼氏がいたが、その彼に無理やり4Pをさせられた経験があった。

ある時三人は川へ泳ぎに行くが、アントニオの裸を見たロレンツォは思わずその体に触れてしまい、怒ったアントニオは帰ってしまう。アントニオに振られたと思ったロレンツォは落ち込み、アントニオの誕生日にプレゼントを渡しに行くが、逆ギレされたように暴力を振るわれる。プレゼントというのは三人で出かけたときの写真だった。

アントニオは自分の気持ちに戸惑い、その夜、ロレンツォの家を訪ね、庭先でキスをする。落ち込んでいたロレンツォは大喜びして、一夜を明かす。一方アントニオは、複雑な気持ちのままモヤモヤしていた。ブルーは彼氏のところへ行くがそこで、先日の4Pの出来事が動画にとられていたことを知りショックを受け母に相談する。

翌朝、気持ちも晴れて嬉しくてたまらないロレンツォは学校へ行く。ブルーは母と一緒に警察に被害届を出しに行く。悩み悩んだアントニオは父のピストルを持ち出す。

学校に着いたアントニオは喜んで迎えたロレンツォを撃ち殺す。取り調べを受けているブルーのところの、学校で銃撃事件があったと連絡が入る。

三人で川に遊びに行った時、もしもアントニオがすぐに怒らずさりげなくかわして川遊びしていたら。そんなもしもの映像が流れて映画が終わる。

たまらなく切ないラストである。実話をもとに構築したストーリーらしいが、その才能に脱帽してしまいました。

アントニオには亡き兄の姿が見えたり、不思議な演出も施され、軽快なリズムの音楽で踊りまわったりする現実とも幻想とも言えない場面も散りばめられ、ぞの映像感覚にどんどん引きこまっれてしまいます。久しぶりに見た見事な才能のなせる作品でした。とにかく切ない映画でした。

「魔術師」(デジタルリマスター版)
40年ぶりくらいだろうか、話をほとんど覚えていないので見直しに行ったが、なるほどこれは傑作である。イングマール・ベルイマン監督の代表作といってもいい一本だった。光の効果を最大限に利用し、スタンダードの構図を使い切った画面演出、クローズアップを多用した緊迫感溢れる映像と一気にひっくり返すコミカルなラストも秀逸。これぞ映像芸術と言わしめるものでした。

旅芸人の魔術師フォーグラーの一行が森で休んでいるところから映画が始まる。そこで一人の男を拾うが間も無くして死んでしまう。

ある街へやってきた一行は、そこの領事エガーマンに屋敷に招待される。なんと彼は魔術師一行のタネを暴いて楽しもうと警察署長や医師らを招いて芸を見せるように言ってきた。

その夜、適当な食事で接待されたものの、屋敷の女たちは男を誘惑するし、医師はフォーグラーの妻をも誘惑しようとしてくる。

そして翌日、魔術のショーが始まるが、嘲笑うことだけの観客たちの様子に、フォーグラーたちはその本性を見せ始める。ところが、一人の男に見えない鎖の魔術をかけている時、突然の時計の音に魔術が破れ、男はフォーグラーに襲いかかって殺してしまう。

警察署長はその夜、検死のための解剖を依頼、屋根裏部屋で医師がフォーグラーの解剖を始めるが、実は全てフォーグラーの仕掛けたものだった。そして次第に恐怖で医師を追い詰めていき、最後に観念させたものの、プライドを傷つけられた警察署長らは追い出すように彼らを出立させようとする。そこに王宮からの招待が届き、一気に立場が逆転、堂々とフォーグラーたちは馬車を走らせて行ってエンディング。

光を一方から当てたり、極端な斜めの構図、クローズアップとの組み合わせ、どこまでが魔術でどこまでが真実か見えない構成、人間同士の丁々発止のドラマ展開など、どこを取っても一級品の面白さであり、ラストのどんでん返しの痛快さも見事。全くベルイマン映画は奥が深いと感慨深い思いに浸る一本でした。