「涙を、獅子のたて髪に」
時代色が強い物語ですが、和製ロミオとジュリエット的なストーリー構成と丁寧なカメラワークがなかなか面白い作品でした。監督は篠田正浩。
港の沖仲仕たちがストをしているシーンから映画は始まる。彼らを監視しているチンピラまがいのサブたちがハッパをかけているところへ、サブの兄貴分の木谷がやってくる。そしてストの首謀者らしい男を連れ去るが間も無くしてその男は死体で見つかる。
ある時、サブは近くのカフェで働くユキという女性と知り合いやがて恋仲になる。そんな時、組合結成の動きを封じるため、木谷はサブにその首謀者らしい男を痛めつけるよう命令。ところが痛めつけるだけが誤って殺してしまう。しかも、殺した男はユキの父親だった。
苦悩するサブ、彼に絡む会社の社長の妖艶な妻、さらには木谷らの悪行が絡んでくる。そして、ユキも真相を知り、サブは、狂ったように木谷を殴り殺してしまい、警察に逮捕され映画は終わる。
これという優れた映画ではないけれど、しっかり演出されたストーリーはなかなかの物でした。
「乾いた花」
これはなかなか見事な映画でした。画面の絵作りといい、物語の語りの巧みさといい、篠田正浩監督らしい個性が随所に出ていました。
賭場を真上から捉える構図のカットから映画が始まります。そこに刑務所を出てきたばかりの村木がやってくる。賭場には美しい冴子という女が座っているが、素人らしく、また素性も見えない謎めいた女だった。冴子を演じているのが加賀まりこですが、さすがにデビュー間もない頃の彼女は本当に可愛らしいし、背後に独特の貫禄がある。
なぜかお互いに惹かれ始めた冴子と村木。村木は冴子の求めに応じて、より大きな賭場を紹介し、何度か一緒に出かけるようになる。オープンカーを走らせ、自由奔放に振る舞う冴子。金の出所も不明の謎めいた彼女に引かれる村木。
そんな彼女はある時からぷっつりと姿を見なくなる。そんな時、ヤクザの縄張り争いで、村木が再び殺しをすることになる。そして、刑務所に入る前にもう一度冴子に会おうと探し回り、最後の最後に彼女を見つけ、殺しの現場を見せる。
刑務所で、知り合いが村木に近づく。冴子は殺されたらしいと告げ、素性は、というところで村木は刑務官に呼ばれる。こうして映画は終わる。冴子は何者だったのか。
なんといっても可愛いだけではない加賀まりこの存在感が素晴らしい。賭場のシーンを丁寧に描写した緊張感も映画を引き締めることになった。絵作り、テンポ共に非常に良くできた作品でした。