くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「さくら」「ドクター・デスの遺産 BLACK FILE」

「さくら」

可もなく不可もない平凡な家族の物語が、次第に歪み歪んでいく終盤がなかなか面白いのだがその後の締めくくりが普通なので、せっかくが無駄になったようなもったいない作品でした。監督は矢崎仁司

 

主人公薫が大学から実家に戻ってくる場面から映画は始まる。行方不明だった父が帰ってくるという手紙をもらったのだという。こうしてこの長谷川家の過去が語られていく。物語の始まりはさくらという子犬を飼い始めたところから始まる。

 

薫には頼りになる兄一、可愛い妹美貴、運送会社に勤める父昭夫、母つぼみがいて幸せな日々だった。妹の美貴はなにかにつけ一を慕い、いつも一緒だった。物語の前半はアットホームなこの家族の毎日が平凡なホームドラマとして描かれていく。

 

間も無くして一に恋人が出来るが、その恋人に美貴は異常なほどに嫉妬心をあらわにする。間も無くしてその彼女は九州へ引っ越し、しかも毎日来ていた手紙も突然来なくなる。そんな頃、薫にも彼女が出来る。

 

平穏に見えた毎日だったが、ある夜一が交通事故に遭い、半身不随と顔半分が爛れた姿になる。車椅子になる一を美貴は献身的に看病するが、それは一の事故を喜んでいるような気さえした。

 

そんなある夜、美貴は薫に部屋に来て子供時代のランドセルにためていた一の彼女からの手紙を見せる。手紙が来ていなかったのではなく美貴が隠していたのだ、その夜一はさくらを散歩に連れ出し公園で自殺する。葬儀の場で美貴は放尿してしまう。間も無くして父が何処かへ消えてしまう。そして現代に戻る。

 

美貴も薫もそして戻った昭夫、そして母つぼみは一のお墓に参る。家族はいつの間にか元通りに戻ったかのようである。その夜、さくらがぐったりするが、病院を探し回っているうちにうんちをして快復、年が明けて新たな年、家族が餃子を食べるシーンで映画は終わっていく。

不思議な物語ですが西加奈子原作らしい一本で、よく考えるとファンタジーのようでもある。そんな空気感が面白い作品でした。

 

「ドクター・デスの遺産 BLACK FILE」

テレビの刑事ドラマレベルの作品にがっかりしました。香港映画風のハイテンポでB級テイスト満載のオープニングが面白いのですが、ちょっと付け焼き刃的な脚本がいまひとつ練り足りなかった感じです。真犯人の登場も唐突だったし謎解きも鮮やかさに欠ける作品でした。監督は深川栄洋

 

雨の中公衆電話から一人の少年が警察に電話をしている。父親が殺されたという。どうやら安楽死を装った殺人事件だと思った犬飼刑事と相棒の高千穂は葬儀の場に向かう。少年の言葉から、謎の医師が存在することが見えた犬飼は死体を強引に解剖へ。そして、薬物による殺人が判明。この手の安楽死を扱う闇サイトとその主催者ドクター・デスの存在を知った犬飼たちは捜査を始める。

 

一つの事件に映っていた映像から看護婦雛森を割り出し、逮捕するが、医師に命令されたことが殺人とは知らなかったと供述、捜査員は彼女を解放して泳がせることにする。

 

一方、それらしい事件を辿っていき、ドクター・デスの似顔絵を作るが、供述者の表現が一致しない。しかしそこに嘘と真実があると判断した高千穂の意見から、一つの似顔絵が完成、それを指名手配する。そしてホームレスの男を逮捕する。しかしその男はただのダミーだった。

 

真犯人は雛森だと確信したが雛森は姿を消してしまう。犬飼の娘沙耶香は重い腎臓病を患っていた。雛森は彼女に近づき、安楽死を望むようにマインドコントロールする。そして犬飼に連絡して、沙耶香の思い出の地に呼び出す。しかし雛森の反撃に会うが駆けつけた高千穂がすんでのところで雛森を逮捕し沙耶香を助ける。

 

こうして映画は大団円を迎えるが、おそらく原作には叙述に描かれているであろう安楽死のメッセージが全然伝わらず薄っぺらい仕上がりになっている。犬飼と沙耶香の苦悩も弱いし、高千穂の存在も甘い。犯人雛森木村佳乃突然の登場ですぐにネタが割れてしまうし、沙耶香に暗示をかける急展開が唐突すぎて呆れてしまいました。時間があればもっといいものできたろうにという感じに映画でした。