「ある女の愛」
物語は流石に古さを感じるものの絵作りはしっかりしているし、見ていてそつのない出来栄えになっていると思います。まあ、普通の作品という感じです。監督はジャック・グレミヨン。
ある港町の老医師が種痘の予防接種をしている場面から映画が始まり、この老医師が引退して新たに若くて美しい女医のマリーがやってくる。地元で工事作業をしているアンドレと知り合い、お互い愛し合うが、いざ結婚となると、アンドレは女性には仕事を辞めて家庭に入ってほしいという。マリーは仕事は捨てられず、かと言ってアンドレを愛していて心が揺れるが、やはりアンドレをとろうと決心。
そんな時、海中に立つ灯台の職員が病気になり、嵐の中、船に乗り治療してきたマリーの姿に、アンドレは、彼女と一緒になれないと確信し、別れていく。一方マリーは、アンドレとの生活の決心はしているものの、結局アンドレが去って、そのままこの村に残ることになって映画は終わる。
序盤の肺炎の少女を助けるエピソードや、地元の女教師の突然の死で、新たに若い教師がやってくる終盤のエピソードにマリーの心に変化を映し出していく手法はなかなか面白いし、よくできていると思います。
今や、こういう話は作られることはありませんが、これもまた古き良き映画という感じですね。
「接吻泥棒」
軽いタッチの恋愛コメディで、テンポよくラストまで走るけれど、特にこれといった妙味があるわけではない。娯楽映画の典型的なノリの作品でした。監督は川島雄三。
ボクシングのチャンピオン高田には、バーのマダム、ファッションデザイナー、ダンサーという三人の女がいる。ある日、車で移動中に事故に巻き込まれ相手の車の中で失神していた美恵子に水を飲ませるために接吻、それをジャーナリストに写真を撮られひと騒動が始まる。
あとは、付き合っている女三人と美恵子を交えての恋愛コメディが次々と展開していくドタバタ劇となる。やがて、タイトルマッチ。その前に三人の女と別れ話をし、本当に好きなのは美恵子と知った高田は、最後の最後で相手をノックダウンして、晴れて美恵子とラブラブになり映画は終わる。まあ、たわいのない映画ですね。
「夜の流れ」
料亭の女将綾とその娘美也子の物語を軸に、料亭に出入りする芸妓たちのエピソードの中に古き時代が過ぎ去り色街が変わり行く様を描いているなかなかクオリティの高い作品なのですが、キャラクターそれぞれが、いかにもうじうじして鬱陶しいので、ちょっと胸焼け気味になってしまいました。監督は川島雄三と成瀬巳喜男。
いい旦那が付いている料亭の女将綾には年頃の娘美也子がいる。実は綾と板前の五十嵐といい仲なのだが誰も知らない。そんなこととは知らず美也子は五十嵐に想いを寄せている。しかし、五十嵐が足の怪我で入院したときに、たまたま見舞いに行った美也子は病室で抱き合う綾と五十嵐に遭遇、綾と美也子に溝ができる。さらに、板前をやめるという五十嵐に、一緒に死んで欲しいと綾が包丁を振り回し、それがきっかけで、店を手放すことになる。
もともと興味のあった芸妓の道に美也子が進み、綾は神戸にいるという五十嵐を頼って旅立って映画は終わる。
現代的に男を求める調子者の三人の稽古のエピソードや、元夫から執拗に絡まれながらも、呉服屋の若者といい仲になるも最後に元夫に無理心中させられ死んでいく芸妓忍のエピソードなどをちりばめ、変わりゆく色街の姿を描いていく展開は見応えがありますが、どこか偏りが見え隠れするのは監督が二人になったためでしょうか。もう少し登場人物の色分けを多彩に変えればもっと素晴らしい映画になった気がしないでもない映画でした。