これは良かった。期待以上に傑作。物語の展開のリズムも緩急も良いし、小さなエピソードの一つ一つがとってもキュートでオリジナリティ溢れて素敵。キャラクターの色分けも楽しい。ラストシーンの畳み掛けに引き込まれて涙ぐんでしまいました。京アニ応援、監督は山田尚子。
うさぎ商店街の向かい同士の餅屋のたまこともち蔵。高校三年生を迎えた主人公のたまこの周りには親友でバトン部のキャプテンみどり、ちょっととぼけた大工志望のかんなら個性的なキャラクターが集まっている。
たまこともち蔵は、窓を隔てて糸電話で話をする習慣があった。もち蔵は東京の美術大学を目指すことにしていたが、幼馴染みながら恋心を持っているたまこにどうやって言うか悩んでいた。そして周りのけしかけなどもあり、もち蔵はたまこにとうとう告白する。川の飛び石でのこの告白シーンはまずとっても素敵。
突然に驚いたたまこは川に落ちたまま家に帰る。たまこももち蔵のことは好きなのだが、いきなり告白され、何もかも混乱してしまう。そんなたまこを見かねたみどりは、たまたまインフルエンザの休校連絡をたまこに回したことを利用し、一方たまこはもち蔵に連絡を回さず、自分の気持ちを学校で伝える決心をする。
学校で一人待つたまこのところにみどりがやってきて、もち蔵は急遽東京へ転校すると嘘言う。驚いたたまこは新幹線の駅に走る。手には糸電話を持っていた。実は転校というのはみどりの嘘で、学校見学に行くだけだった。
そして乗り込む寸前に追いついたたまこは糸電話でもち蔵に、好きだと告白して映画は終わる。このクライマックスの暗転を使った演出も実に上手い。全編駆け抜ける女子高生トークとハイテンポが心地よい上に、小さなエピソードがとっても素敵でうるうるしてしまう。久しぶりのアニメの傑作を見た。
「アンティークの祝祭」
全編ファンタジーでしかもB級映画テイストにも関わらずカトリーヌ・ドヌーブというのが楽しい作品でした。監督はジュリー・ベルトゥチェリ。
ベッドに寝る一人の少女。お母さんが来て象のアンティークな時計を棚に置きにくる。時計がカチカチとリズムを取り始めてタイトルバック。タイトルが終わると一人の老婦人クレールがベッドに眠っている。冒頭の少女の今かと思ったが、冒頭の少女はマリーというクレールの娘だとわかる。
クレールは死んだ息子マルタンの幻影を見てしまい朝が来る。クレールは自宅にあるアンティークコレクションを庭に出しガレージセールを始める。突然、広がった品物が消えたりというシュールなカットも挿入。
まもなくして娘の友達マルティーヌが心配をしてやってくる。幼い頃、マリーと一緒に遊んだ頃に見た思い出の品物を自分で買おうとする。やがてマリーもやってくる。クレールは今夜死んでしまうので、身辺を整理しているのだという。
映画は、ガレージセールの様子に重ねてマリーの幼い頃、クレールの若い頃のドラマが描かれていく。息子のマルタンはクレールが所有する採石場で爆破事故で死んでしまい。それを指示した夫をクレールが罵倒したため心臓麻痺で死んでしまう。
マリーは幼い頃マルタンやマルティネスと庭にある大きな木の根元に宝物を隠す遊びをしていた。クレールは、自分の指輪をマリーが取ったと幼い頃から言っていた。
突然ガレージセールをやめると言い出し、近くの老神父に悪魔祓いをしてくれと頼んだりする。やがて夜になる。クレールは一人、道を彷徨い突然倒れ、病院に担ぎ込まれる。一方、マリーは庭の木に根元で母が探していた指輪を見つけ病室に行く。クレールはその指輪をマリーに与える。
マリーが目を離した隙にクレールは病室を抜け出し自宅に帰る。近くの移動遊園地では花火が打ち上げられていた。クレールの家の庭では老神父が悪魔払いをしている。クレールはヤカンを火にかけて眠ってしまう。花火の火の粉がクレールの家に入り込み、漏れていたガスに引火し、大邸宅が大爆発する。空に舞い上がるアンティーク品の数々で映画はエンディング。
クレールが見るウエディングドレスを着た女性たちや、ガレージセールの下から突然出てくる少女など、幻想的な映像を挿入して、シュールでファンタジックな、それでいて、老婦人の幻覚のような演出を随所に入れ面白い映画になっていました。
「ワイルド・ローズ」
これは良い映画でした。何度も胸が熱くなってしまいました。スター誕生ドラマですが、人生ドラマとしての現実感が物語にしっかりと描けているし、主演のジェシー・バックリーの演技が抜群。自分の生き方さえ考えてしまう秀作でした。監督はトム・ハーパー。
ローズリン・ハーランが約一年の刑期を終えて出所してくる場面から映画は始まる。カントリーミュージックの歌手でもある彼女だが二人の子供を育てるシングルマザーで、祖母に預けて刑務所にいたが帰ってみると9歳の娘は口も効いてくれない。
ローズリンには、カントリーの本場ナッシュビルに行く夢があったが、差し当たりかつてのバーへ仕事をもらいに行く。しかし、働き口はなく、仕方なく裕福なスザンナの家で掃除婦として働くことにする。掃除をしながら歌を歌うローズリンの背後にバンドが現れてくる映画的なシーンにまず惹かれる。
ローズリンの歌声を聞いたスザンナは、ネットを通じて有名なカントリーのDJに彼女を会わせて、さらにはナッシュビルへ行くお金を集めるためのパーティを企画する。一方で、ローズリンは、子供たちとのことが気がかりで、祖母に預ける罪悪感もあった。しかし、夢のためにと必死で子供を預けるローズリンの姿が痛々しいほどの切ない。
しかし、資金集めのパーティーの日、息子が大怪我をし、とりあえず祖母に預けてパーティー会場に来たものの歌えず、家に帰る。そして歌うことを諦め普通に働き始めるが、そんな娘を見ていた祖母のマリオンは、なけなしの金を渡してナッシュビルに行かせる。
夢叶ったローズリンは勇んでナッシュビルに行くが、そこで、ツアー客から離れて、記念施設の舞台で歌う。そして、自分にないもの、自分が本当にやりたいことに目覚める。それは故郷グラスゴーで歌うこと、そして自分の曲を作って歌うことだった。
一年後、大きなホールで歌う彼女の前には、スザンヌやその家族、祖母、子供たちの姿があった。映画はこうして終わる。ジェシー・バックリーの歌唱力も素晴らしいですが、人生のドラマを感じさせてくれる臨場感に圧倒されてしまいます。本当に良い映画でした。