くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「mellow」「記憶屋 あなたを忘れない」「イチかバチか」

「mellow」

これは良かった。始まってからラストまで胸が締め付けられるほどキュンキュンになってしまいました。とっても素敵な恋愛映画の秀作に出会った感じです。監督は今泉力哉

 

mellowという花屋を営む夏目の姿から映画が始まる。一人の女子中学生が小さな花束を注文しにやってくる。夏目は、近所にある父の後を継いで娘の木帆が営むラーメン店に通っている。夏目はそこの父の仏壇の花を替えている。

 

家が美容室を営む女子中学生も夏目の花屋で花を買って店に飾っている。夏目には時々不登校になる姪がいて、この日も姉がその姪を花屋に預けてくる。夏目はちょっとおませな姪と花を飾りに行く。この日、ある家の玄関の花を替えに言ったが、その家の夫婦に呼ばれ、妻が夏目に惚れたらしいので離婚することになったと言われる。

 

物語は、木帆と夏目の交流の物語を中心に、周辺のお話が淡々と語られる。美容室の娘の女子中学生は、冒頭の女子中学生に告白されるが、実は夏目のことが好きだったので、告白しようとしている。物語の中心は、告白することで例え振られたとしても気持ちは残るという切ないメッセージを語っていく。

 

木帆は店を閉めることを考えている。留学する予定なのである。しかしお互いに好いていることが姪や木帆の友達の目からも明らかだった。そして、店を閉める日、夏目は木帆の店を訪ねる。最後の客の予定だったが、予期せぬ老人の客で、最後のラーメンを食べ損ねたまま、夏目は木帆から手紙をもらう。一方、夏目は木帆の父に預かっていた手紙を残す。

 

木帆の手紙には、夏目を好きであることなどが書かれ、木帆の父の手紙には、木帆が留学を希望していたのに自分が死んでしまって苦労をかけたことなどが書かれていた。

 

翌朝、夏目がmellowに行くと、夏目のことが好きな女子高生が待っていて告白される。その後、夏目は白い花束を持って木帆を訪ねる。振り返った木帆が、二人で一瞬見た飛行機を指差し「飛行機」と叫んで映画は終わる。多分夏目は告白したのだろうという余韻がたまらなく切ない。素敵なラブストーリーという言葉がぴったりの映画でした。それに木帆を演じた岡崎紗絵が抜群に可愛いのでハマってしまいました。

 

「記憶屋あなたを忘れない

普通の映画だし、物語の先も読めてしまうのですが、とにかく切なくて切なくて涙が溢れてきてしまいました。平凡な映画のはずなのにのめり込んで泣いてしまいました。監督は平川雄一朗。

 

主人公遼一が、ネットで記憶屋のことを検索している。この世には人の記憶を消すことができる記憶屋という存在があるという。なぜ検索しているかというと、遼一の恋人杏子がある日突然自分のことを忘れていたためだった。

 

遼一の家には幼馴染で少し年下の真希が同居していて、どこへいくにも一緒だった。真希は幼い頃、連続幼児誘拐事件の被害者だったが、無事救出されたものの事件のことを完全に忘れていたのだ。

 

遼一は大学でたまたま聞いた講義の先生で弁護士の高原に相談し、高原も興味を持っていた記憶屋を探すことにする。高原は、助手の七海に過去の事件を調査させる。高原には2年前に別れた妻がいてその娘から自分の記憶を消して欲しいと思っていた。

 

物語は、杏子の記憶を取り戻そうとする遼一の行動と記憶屋を探そうとする高原の姿を軸に、常に遼一に寄り添う真希の行動を捉えていく。そして、どうやら糸口が見えたと七海が突き止めた途端、七海の調査の記憶が消えてしまう。そして、事務所で高原は真希のカバンについていたアクセサリーを見つける。直後、高原は発作に見舞われ病院へ行くがその直前、ネットに記憶屋に会いたいと書き込む。

 

遼一が高原の病室に行く。そして遼一が去った後、現れたのは真希だった。真希が記憶屋だった。高原は娘の記憶を消すように依頼する。そして、真希が帰った後、急変した高原は死んでしまう。

 

葬儀の場所で、遼一は高原の娘に父のことを聞くが記憶は消されていなかった。その後、記憶屋が現れるという公園へ向かうが、その前に高原からの最後の手紙を受け取り読む。

 

公園には真希がいた。記憶屋が若い女性だったという目撃などもあり高原の手紙の内容からも真希だと気がついていたのだ。真希は、杏子が遼一からのプロポーズのあと強姦され、記憶屋として真希が呼ばれたことを語る。そして、杏子が望んだのは強姦の事件の記憶だけだったが、真希は遼一の記憶も消したのは自分の意思だと告白する。幼い頃から真希は遼一が好きだったのだ。そして、真希の祖父から、真希の血筋にそういう能力があることを知らされたという。

 

真希のことを許し、これからも側にいるという遼一に、真希は一度でいいから好きになってと抱きしめる。翌朝、目覚めた遼一の家には真希の姿はなかった。遼一は、杏子の勤めるカフェに向かう。自分の記憶を遼一から消して一人去っていく真希のカットで映画は終わる。

 

だいたいの先読みができるし、主人公周辺の脇役の描き方も甘いが、とにかく真希を演じた芳根京子が可愛い上に迫真の演技で、映画を引っ張ってくれる。その意味で、少々の荒さは見逃しても泣けた気がします。個人的に好きな作品です。

 

「イチかバチか」

ある意味、豪快な映画である。工場誘致にかかる丁々発止のコメディなのですが、やることなすことがスッ飛んでいます。ばかばかしいほどの仰々しさをくそまじめに笑い飛ばしていくのが楽しい作品でした。監督は川島雄三。彼の遺作である。

 

鉄鋼界の風雲児で、一代で大会社を作った島が、取引銀行から三十億の現金を持ってこさすところから映画は始まる。彼は近々五十万坪の大工場を建築する計画を持っていた。そして、かつての友人の息子で切れ者の北野をヘッドハンティングする。

 

そんなとき、東三市の市長という大田原という身勝手そのものの男が島に近づいてくる。やることなすこと破天荒で、鼻持ちならないこの男を最初は疎んじていたが、その強引さに、どんどんそのペースに引き込まれていく。

 

しかし、いつの間にか、この男が私利私欲もなく、本当に市のことを考えていることが見え始めてくる。市長に敵対するのは市会議員の松永だったが、最後は、市庁舎の上で市民を集めての大演説合戦となる。まあ、無茶苦茶な展開である。

 

そして、最後に島が駆けつけ、二百億の現ナマを見せて、大田原の潔白を証明して、工場誘致を現実にする。ことが成就したので北野は退職願を提出、市長も今季で辞職して参議院に出ると豪語して映画は終わる。

 

高度経済成長期の典型的な舞台を利用したコミカルな作品で、かなりステロタイプ化した演出になっているとはいえ、流石に川島雄三と言える色合いだらけの秀作だった気がします。楽しかったです。