くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヤクザと家族 The Family」「名も無き世界のエンドロール」

「ヤクザと家族 The Family」

映画の出来栄えは一級品だった。ここまで重厚な人間ドラマはここしばらく日本映画で見てこなかった気がします。二重三重に練り込まれた物語に圧倒されました。ただ、何か違和感があります。どこか脚本を書いた藤井道人の偏ったメッセージが見え隠れするように思うのは考え過ぎでしょうか。ラストシーンは涙ぐんでしまうのですが、素直な感動ではない。この違和感が払拭されたら紛れもなく最高の一本だったと思います。監督は藤井道人

 

時は1999年、不良グループのリーダー山本賢治は、父親が自殺したというので葬儀に出ている。ヤクザで薬中でもあった父を半分軽蔑しながら山本は仲間と連んでバイクを乗り回している。いつもいく木村愛子の経営する焼肉屋に行き適当に過ごしていた。そこへ、柴咲組の組長柴咲博らが焼肉を食べに入ってくる。木村愛子の夫は元柴咲組の幹部だったが、殺されたのだ。

 

そんなところへ、アジア人らしい強盗が飛び込んできて暴れ始める。そして、あわや柴咲博も危ないとなった時、切れた山本はアジア人を殴り倒してその場を収め逃げる。後日、柴咲組の幹部中村が山本の部屋にやってきて山本を組事務所に連れて行く。山本は柴咲に礼を言われながらも、ヤクザを嫌う山本は柴咲の名刺だけ受け取りその場を去る。

 

ところが、山本らがたまたまドラッグの売人から薬と金を奪ったことから、その売人の組織ヤクザ加藤らが山本らを襲う。そして仲間ともども捕まってしまう。そして臓器売買で売り飛ばされる寸前、山本が持っていた柴咲の名刺を加藤が見て、山本らは中村に引き渡される。それがきっかけで山本は昔ながらの義理と人情のヤクザ道を進む柴咲組に入ることになり、盃を交わす。

 

時は2005年、今や幹部級となった山本はかつての弟分細野らを連れて柴咲組を守っていた。恋らしいものも手に入れ、苦学生の工藤由香とも知り合う。しかし警察と癒着して今時の世渡りをする加藤らの組織は何かにつけ柴咲組を目の敵にし、ある時、柴咲博を誘き出し亡き者にしようと襲いかかる。その時、運転していた山本の弟分が死んでしまい、山本も怪我を負う。加藤らは警察に手を回し、うまく丸め込もうとするが、堪えられない山本は病院を抜け出し、細野に拳銃を手配させ、加藤の右腕の川山を襲う。ところがそこへ中村が飛び込み川山を刺す。山本は中村のドスを取り、身代わりとなり中村を逃す。

 

それから14年が経ち、山本は出所してくる。彼を出迎えたのは中村だった。柴咲組の事務所にやってきた山本は、あまりにも変わってしまった組の姿を目の当たりにする。暴対法でまともなヤクザ仕事はできなくなり、収入も減る中、組員は次々と辞めて、柴咲博も癌に犯されていた。中村がなんとか残った数人の組員を養っていたが山本と親しかった細野も今は結婚して娘もいて普通に生活をしていた。しかし、山本と接触することさえも躊躇するほど世の中は変わっていた。

 

細野が由香の居場所を見つけて山本に知らせる。由香は今は公務員となり、14歳の娘もいた。山本が逮捕される直前由香を抱いたときの子供だった。一時は由香から離れようと考えたがどうしても忘れられず、そんな山本に入院している柴咲博は除籍するように勧告する。山本は細野の口利きで産廃業者に就職し、由香らと暮らすようになる。ところが、たまたま細野の同僚が細野と山本の写真をSNSにアップしたことからその素性がバレてしまい、細野は家庭を無くし、由香も役所をクビになり娘も学校に広まり、由香は娘を連れて家を出ていく。

 

山本は木村愛子の焼肉屋へやってくる。そこにはかつて幼かった愛子の息子翼が今や半グレとなって街を牛耳っていた。そして何かにつけて山本の力になろうとするが、そんな中、たまたま加藤に呼びつけられて出かけて、自分の父親を殺した相手が加藤で、警察とも癒着していることを知ってしまう。翼は復讐を誓い、加藤のところへ向かうが、一足早く山本が加藤に襲いかかり殴り殺していた。

 

再び刑務所に入ることを決意し、港にいる山本に一人の男がドスで突き刺してくる。なんと何もかも失った細野だった。山本に恨言を言いながらも涙ぐむ細野。やがて山本は海に落ちて死んでしまう。

 

山本の死んだ場所に立つ翼は花束をそっと置く。帰ろうとしたところへ由香の娘がやってきて、父のことを教えて欲しいという。その娘が山本の娘と分かった翼は、娘に語り始めて映画は終わる。

 

人間ドラマとしては恐ろしいほどによくできていて、圧倒されるほどに感動してしまいます。しかし、何か引っ掛かるのは、ヤクザも人間として扱えというやや偏見めいたメッセージと、出てくる警官が悪徳警官として描いたという正反対のキャラクターの存在ではないでしょうか。確かにヤクザという存在を手放しで毛嫌いするべきではないのかもしれないし、人間であることに変わりはないというメッセージはわかるのですが、ややその部分が押し付けがましく感じるのは私だけでしょうか。いい映画です。一級品の仕上がりだと思いますが、しかし絶対おすすめと書き辛い映画でした。

 

「名も無き世界のエンドロール」

面白いんだけれど、原作もそれほど大したことはないというのが見え見えで、さらに脚本もあまり仕上がりは良くないので、全体が非常に薄っぺらいラブストーリーに仕上がったという感じです。主演の二人の存在感が実に薄くて、あれだけのことをするに至る心理的な切迫感が全然見えてきませんでした。監督は佐藤祐市

 

サンタの格好をしたキダが街を歩いている。時はクリスマスイブ。親友のマコトとと話をしていて、今日がプロポーズ大作戦の仕上げだと言っている。そして物語は彼らの小学校時代へ遡る。映画は小学校時代から順に時間を進める一方で現代の場面と交互にしつこく描かれていきます。

 

悪戯が好きで、なにかのつけキダをからかうマコトたちの姿、そんな二人と仲の良い少女ヨッチ。キダとマコトのクラスにヨッチが来たのは小学校の時。前の学校でいじめられ、自分の存在さえも消されてきたヨッチは、同じく両親のいない境遇のマコトとキダとすぐに仲良くなる。そしていつも二人で過ごすようになっていた。

 

マコトとキダは学校を卒業し自動車工場で働き始めていた。ある日、真っ赤なポルシェに乗ったリサという女がやってきて、金はいくらでも出すから内緒で修理して欲しいという。二ヶ月ほど前に犬を轢いてヘッドライトのあたりをへこませていたリサは、免許も車検証もないというので、社長は一旦断るが、少しして突然受けると言い出す。強引な流れである。マコトはリサに食事に誘うが、見下げる仕草で高飛車に断られる。

 

マコトとキダは高校になり、相変わらず三人一緒に過ごしている。そんな雨のある日、キダはヨッチに告白するが、ヨッチはマコトに数日前に告白されたので諦めて欲しいという。

 

自動車工場で働く二人だが、マコトはある日突然辞める。このままではリサのような女を手に入れられないと考えたのか、それから行方不明になる。そんな時、突然、工場の敷地が道路にかかり、工場は閉鎖せざるを得なくなる。社長はキダに幼馴染で輸入代行を仕事にしているが裏の仕事もしているという会社の社長を紹介する。なんという無理のある展開。

 

キダはそこで交渉屋の仕事をし始めるが、持ち前の性格で社長にも気に入られる。キダはそこでマコトの居場所を見つける。行ってみるとマコトは必死で金を貯め、ワインの会社を買い取ることにしていた。やがて会社社長の地位になったマコトは何かにつけキダに頼み事をし、リサを手に入れるための画策を進めていく。この辺りもかなり雑。

 

修理工場に勤め始めた頃、マコトはキダに、ヨッチへのプロポーズ大作戦を手伝って欲しいと言っていた。キダはサンタの格好で花火の準備をし、マコトはヨッチにサプライズをするべく買い物帰りのヨッチを待っていた。ところが、なかなか来ないのでマコトはヨッチを迎えにいく。

 

リサの父は国会議員で、実はリサの事故も父親が隠蔽し、修理工場にも無理を言って修理させ、最後には立ち退かせるという汚い手段を使っていた。そして、物語は現代、キダはサンタの格好をしてあるイベントに潜入していた。この日モデルでもあるリサのイベントがあり、会場に巨大スクリーンが設置され、若者が集まっていた。

 

その巨大スクリーンに突然、近くで控えているリサの部屋が映る。そこに現れたのはマコトで、マコトはリサと交際していたが、この日リサに最後の言葉を告げる計画だった。マコトは、リサと出会ったのは修理工場であったこと、リサが轢き殺したという犬こそヨッチだったこと、そして何もかもリサの父親が握りつぶしたことを告げる。リサは逆ギレし、マコトを罵倒する。その様子は巨大スクリーンに映されていた。マコトはキダに頼んで爆弾を用意し、リサに部屋で爆破させるつもりだった。

 

ある程度の告白が明るみになったところで、キダはマコトにそれ以上やらないように、部屋に向かうが、行ってみた部屋は違う部屋で、直後向かいのホテルに部屋が爆発する。マコトのキダへの最後の悪戯だった。こうして映画は終わっていく。

 

最後に真相が明らかになる降りは終盤予測できる上に、あまりサプライズなテンポが生み出せていない。さらにここまで執念深くマコトが思い込むという熱い恋愛感情がスクリーンから伝わってこないので、非常に物語が弱い。決して演技力のない役者ではないが、演出の弱さか脚本の弱さか、本当に物足りない仕上がりになっていました。