くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「カポネ」

「カポネ」

アル・カポネの晩年の姿を、彼の妄想と幻覚の物語として映像でつづっていくなかなか見ごたえのある作品で楽しめました。監督はジョシュ・トランク

 

一人の男が大邸宅の中をうろついていて、ある部屋で一人の女の子を見つける。女の子は叫び声を上げて逃げると男が追っていく。あちこちから大勢の子供たちが出てきてその男と戯れながら庭に出て遊ぶ。映画はこうして幕を開ける。

 

この男の名はフォンス、かつて暗黒街を牛耳ったアル・カポネの今の姿である。1931年脱税容疑で逮捕されたアル・カポネは獄中で梅毒が悪化、その後出所してフロリダの邸宅で監視下の元過ごしているというテロップが最初に出る。この日感謝祭でフォンスの身内が大勢集まっていた。アルの名前は禁句とされ、みなフォンスと呼んでいた。妻が寄り添っているが、フォンスの病状はみるみる悪化していた。

 

時々、クリーブランドから電話がかかってくる。フォンスの隠し子トニーからだったが、フォンス以外には言葉を発しないのでわからなかった。

 

フォンスは息子たちと過ごす中でも突然失禁してしまったり、ベッドで大便を漏らしたりし、おむつをまかざるを得なくなる。しかし、愛用の葉巻は欠かさず口にしていた。

 

物語はフォンスが見る様々な幻覚とも現実ともつかない映像が描かれていく。それは、ギャング時代の殺戮や仲間内の抗争などの再現でもあった。時に、大金を隠しているという情報があり,FBIのクロフォード捜査官が探りを入れるが、はっきりわからない。彼はフォンスが仮病を使っているのではないかと疑う。

 

病状がさらに悪化し、軽い脳卒中なども起こし、医師は葉巻の代わりにニンジンを咥えさせるが、それに抵抗すら見せない。ところが、突然姿が見えなくなったフォンスは、飾り物の金ぴかのマシンガンを持って現れ、集まった人たちや使用人を滅多撃ちにして殺し始める。しかし、これもまた彼の幻覚だった。

 

やがて再び感謝祭の日が来るクリーブランドからの電話を妻がとり、トニーだろうと話す。そして、感謝祭が終わって皆が帰った後、一人庭に座るフォンスの傍らにトニーが座り、手をつないで映画は終わる。

 

殺戮の限りを尽くした一人の男の晩年の孤独を、シュールな幻覚を描く映像で語っていく物語は切ないほどに物悲しい。現実と幻覚をくっきりと描き分けずに、時にオーバーラップしたかのように映像が重なる演出はなかなかの一本でした。面白かった。