くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「春江水暖 しゅんこうすいだん」「ジョゼと虎と魚たち」(犬童一心監督版)

「春江水暖」

美しい景色と延々と捉える長回しの中に、変わりゆく中国の時の流れと、一つの家族の物語を静かに淡々と描いていく。抒情詩のような美しいハーモニーに沁み入る感動を覚える一本でした。よかったです。監督はグー・シャオガン。

 

祖母の誕生祝いに長男が経営するレストランでパーティーが開かれている場面から映画は始まります。ところが突然祖母が倒れ、救急車で運ばれる。高血圧による軽い脳卒中だったが、認知症が進み、四人の子供たちはその世話について話し合うことになる。

 

物語は兄弟四人や孫の生活を淡々と描く展開となる。長回しを多用したシーンが連続し、一方で美しい景色が挿入され、ゆったりと流れる映像のリズムが、間近に迫ってくる近代化の波と、人間の本質のドラマが絶妙の緩急で描く様は見事。

 

これという劇的な展開はないものの、素朴すぎるドラマがかえって物語を盛り上げてくるから不思議です。まもなくして祖母が亡くなり、その葬儀の場面で映画は終わっていきます。彼方には立ち並ぶ高層ビルと広がる湾の景色が胸に何かのメッセージを語りかけてきます。

 

ジョゼと虎と魚たち」(犬童一心監督版)

二十年ぶりくらいの再見。やはり素敵な映画でした。細かいセリフの中に散りばめられる厳しい現実、その間に描かれる切ないラブストーリーが絶妙で、主演の池脇千鶴の名演技が、なんとも言えない甘酸っぱさを映し出してくれました。

 

大学生の恒夫が麻雀店でバイトをしている場面から映画は始まる。夜な夜な出没する乳母車を押した老婆の話題になる。たまたま、店長の犬の散歩をしていた恒夫は、坂道を降りてくる乳母車と遭遇、中を見ると包丁を持った少女が乗っていた。押していた老婆に誘われるままに朝食を食べた恒夫は、その少女の足が不自由であることがわかる。彼女はフランソワーズ・サガンの小説のファンで、登場人物の名をとってジョゼと名乗っていた。

 

食事目当てで何度か恒夫はジョゼの家を訪ねるが、所詮、障害者だから構うなという祖母の言葉に足が遠のく。やがて就職活動を始めた恒夫は、会社訪問で、あの祖母が死んだことを知る。恒夫はジョゼの家を訪ね、一人で必死で暮らすジョゼの姿を見る。帰ろうとする恒夫に泣きじゃくって追い縋るジョゼ。彼女は心細かった。恒夫はその日ジョゼと体を合わせる。そして一年が経つ。

 

恒夫は実家の法事に行くことになり、ジョゼを連れていくことにする。二人は一時のアバンチュールを楽しむが二人は、永遠に続かないことを知っていた。そして、魚の泳ぐラブホテルで体を重ねる。

 

帰ってきて、少し経って、恒夫はジョゼの家を去る。迎えにきた彼女と歩いていた恒夫は思わずその場で泣きじゃくってしまう。自分の弱さに情けなくなる恒夫。

 

カットが変わり、電動車椅子に乗るジョゼ、自宅でいつものように料理をするジョゼのシーンで映画は終わる。散りばめられる現実の厳しさを表現するセリフと、犬童一心監督らしいギャグ映像なども満載で、深みのある一時の切ないラブストーリーに涙してしまいます。やはり名作ですね。