くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「愛しの故郷」「グンダーマン 優しき裏切り者の歌」

「愛しの故郷(ふるさと)」

チャン・イーモウが制作総指揮を務めた作品で、先日見た「愛しの母国」の姉妹作品。オムニバス五話からなります。どの話も心に感動を呼び起こさせてくれるし、コミカルな展開がとっても楽しくてほのぼのしてしまいます。プロパガンダ的な色合いもちらほら見え隠れするのですが、それをさておけば、なかなか楽しい映画でした。

 

第一話は、主人公の家に突然叔父という男がやってくる。甲状腺の手術をしなければならないが保険証がない。一方主人公は車を買うために金を貯めていた。主人公は自分の保険証を使って叔父に手術を受けさせようとする。ところが主人公も高血圧で、気を失った拍子に間違えて入院させられてしまうが、すったもんだの末に主人公は金を貸してやることで叔父は手術を受けられるが、実は叔父の妻が保険に入っていたので、貸した金を取り返しに行くことになりハッピーエンド。

第二話は、YouTuberが主人公。たまたまUFOの作り物をテストしている時に、子供達に見つかって、村は大騒ぎになり、テレビ局もやってくる展開に。結局、バレてしまうものの、村人が一つになってハッピーエンド。

第三話は、美術教授の話で、突然脳梗塞で倒れて、治ったものに認知症になり、かつて山深い村で教えていた頃に逆戻りしてしまう。恩師を助けようと、いい歳になった教え子たちが大奮闘し、最後は、昔教えていた頃にもらった絵のなぞがとけてハッピーエンド。

第四話は、通販の女王で大成功した主人公がかつての故郷に帰ってくる。途中、いかにも胡散臭い男に近づかれるが、実はその男は、主人公が幼き日に学んだ学校で、捨て子でおんぶされていた少年だった。砂嵐で過疎化が進むその村を立て直したのは私財を投げ打って頑張ったその男で、今は一文なしになっていたが、主人公は、その男が作るリンゴを通販で宣伝することでハッピーエンド。

第五話は、美術の才能がある夫をロシアの大学に行かせるべく奮闘していた妻、彼女は村のレスリングのコーチという過去もあり、今は妊娠していた。一方、主人公は故郷の村おこしのために、妻にはロシアに行ったと見せかけて、村の施設に絵を描き続けている。ドタバタの展開ののちに全てがバレてしまうが、そんな夫が誇らしいと妻が叫んで大団円。

 

どれもこれもほのぼのしたコメディで仕上がっているので、見ていて心があったかくなります。中国映画であることを忘れたら、結構好きな作品になっていそうな仕上がりでした。

 

「グンダーマン 優しき裏切り者の歌」

いい映画なのですが、いかんせん東ドイツ共産主義時代の暗部の知識が皆無な私には、主人公の心の葛藤や、当時の彼に対する視線の意味などが伝わりきれずに、と言って、ミュージシャンとしての存在の偉大さも見えないために、映画がやたら長く感じてしまいました。監督はアンドレアス・ドレーゼン。

 

時は1992年、東西ドイツの統一後のドイツを舞台に映画が始まる。それなりに名声を得ている主人公グンダーマンが、バンド仲間と語らっているシーンから映画が始まる。帰り道で怪我をしたハリネズミを拾って帰る。家には妻コニーが待っている。次のツアーにバンドメンバーが集まるかどうかなどの話をしている中、物語は1975年、東西分裂時の東ドイツへ移る。友人の妻コニーが出産した病院へ面会に行くグンダーマンの場面。実はグンダーマンはコニーのことを愛していたが、友人の妻だった。グンダーマンは、石炭の採掘場で働きながらミュージシャンとして活躍していた。映画は1975年からのグンダーマンのドラマと1992年のドラマを交互に描いていくのだが、老けメイクをしているとはいえ、ほとんど容姿が変わらず、最初は混乱してしまう。

 

1975年からの物語、ある時、政府の秘密警察シュタージの役人がグンダーマンに近づいてくる。西でのコンサートも実現させてやる代わりに、スパイとして、西側に行くことを望む人物などを調査報告してほしいという。グンダーマンは、社会主義体制に真っ向から反対しているわけでもなく、即座にその仕事の誓約書にサインする。しかし、石炭採掘場の上層部からの作業指示には反感を持っていて、何かにつけ意見を上申する。

 

分裂中と東西統一後のドイツでの彼の物語が展開、コニーとの愛も成就するが、統一後のドイツではシュタージの問題が表に出てくるようになる。グンダーマンは、自分も協力していたことをバンドメンバーにも告白し、コンサートで観客にも告白して、演奏を続ける場面で映画は終わる。

 

物語はシンプルなので、分裂時と統一後の暗部の史実がわからないと本当の深みは理解できないように思えるのが残念。ドイツ本国では評価されるだろうが、海外では理解しづらい部分があり、世界市場をターゲットにした作りになっていないのは実にもったいない。でもいい映画でした。