くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「自由を我等に」「巴里の屋根の下」「恐るべき子供たち」

「自由を我等に」(4Kリマスター版)

四十年ぶりに見直したが、やはり傑作ですね。この時代にこれだけのテーマを盛り込んで、しかも軽快なリズムで展開していく映像作りのうまさと、サイレントとトーキーを織り交ぜたような演出、名作とはここまで煮詰まったものをいうと言う典型的な作品でした。監督はルネ・クレール

 

刑務所の中でおもちゃを作る作業をするルイとエミール。しかしルイはその道具を隠して房へ持ち帰る。そして二人は脱走を企てるが、ルイは成功するがエミールは逃げきれなかった。

 

脱走したルイは蓄音器の製造でどんどん出世して大企業の社長となる。そんな時、出所してきたエミールは野原で寝そべっていて警察に咎められ、留置所へ入れられるがその向かいにいた一人の女性ジャンヌに一目惚れする。

 

あわよく留置所を脱出したものの追いかけられ、ルイの工場へ逃げ君そこで働くことになる。しかし、作業を失敗して逃げ惑っていて、ルイと再会する。ルイは金で追い返そうとするが、結局エミールを雇うことに。

 

エミールはこの工場に事務で務めるジャンヌに恋心を持ったからなんとかしてほしいと頼む。ルイはジャンヌの叔父に含んでエミールとの仲を取り持とうとするが実はジャンヌには同じ工場に恋人がいた。

 

そんな頃、ルイを知る刑務所仲間がルイを見つけ、仲間を連れて脅しにやってくる。ルイは巧みにその男たちを自宅に閉じ込め、観念して逃げ出そうと金を詰めて準備するが、一人の男がその金を持って逃げようとする。そこへ、ジャンヌに恋人がいることを知り失恋したエミールがやってくる。

 

ルイを脅した男たちは一旦警察に逮捕される。新工場の落成式、ルイは工場を譲って引退を表明する。一方警察はルイの正体を知り逮捕にやってくる。折しも、以前、ルイの家から金を持って逃げようとした男が屋根に忘れた金の入ったバッグが風で開き札束が舞い上がる。

 

その混乱の中、ルイとエミールは自由の身になって逃げる。新工場では、すべてがオートメーションで人間の出番さえない工場だった。その稼働する傍らで釣りをしたりして遊ぶ従業員たちの姿、一方ルイとエミールは文無しになって何処かへ去って行って映画は終わる。

 

見事。機械文明への風刺、人間の価値観へのメッセージ、などなど盛り込まれた内容も素晴らしいが、お金が舞い上がったり、建物の空間の配置や構図、カメラアングルやワーキングのテンポ、さらにストーリーテリングのリズム、どれをとっても素晴らしい、これこそ名作ですね。

 

「巴里の屋根の下」「4Kリマスター版)

映画というのはこうやって作る。そう見せつけてくるような名作です。ルネ・クレール監督初トーキーを四十年ぶりくらいに見直しました。カメラワークに秀逸さ、絵で語るという演出の基本的な部分がしっかり出来上がり、さりげない恋愛ドラマが一つの詩のように流れていく。背後に奏でるシャンソンの名曲も見事。色褪せない名作です。

 

パリの空からカメラがゆっくりと下町の路地に降りてくると一人の男アルベールが流行りの歌を歌いながら囲んでいる人たちに楽譜を売っている場面へ移っていく。カメラの動きに合わせて曲が被ってくるこのオープニングが実に上手い。取り囲む客のそばにスリの男がいて、巧みに財布を狙うが、アルベールはさりげなく戒める視線を贈る。アルベールはその人たちの中に美しい女性ポーラを見つける。そして、歌の後口説こうとするが、ポーラにはフレッドといういかにも遊び人の男がいた。

 

ポーラはフレッドと喧嘩をして、フレッドはポーラに部屋の鍵を手に入れたまま二人は別れていく。そんなポーラにアルベールは再度アタックするが結局、受け入れられない。しかし家に入れないポーラはアルベールの部屋に泊まることになる。翌朝、アルベールの友人でさっきのスリの男がカバンを預けにくる。

 

ポーラが出た後、アルベールの部屋に警察がやってくる。そして、スリが預けた鞄を調べるとなんと盗品が入っていた。アルベールは逮捕される。心配なポーラはアルベールの友人に相談しやがて二人は恋仲になる。まもなくしてスリの男が捕まり、真相が分かりアルベールは釈放される。

 

一方、ポーラはフレッドに執拗に言い寄られていた。カフェでアルベールを見かけたポーラは声をかけるが、どこかよそよそしい。しかしアルベールはポーラを愛していた。しかし、すでにポーラの心はアルベールの友人に移っていた。全てを察したアルベールは友人にポーラを譲り夜の街に出ていく。いつもの歌声、街でアルベールが歌っている。カメラはゆっくりと空に上がっていき映画は終わる。見事です。これが名作です。

 

恐るべき子供たち」(4Kリマスター版)

かなり毒のある作品ですが傑作でした。アンリ・ドカエのカメラも美しいのですが、救いようがないほどに辛辣な弟に対する姉の歪んだ愛情が全編にわたって迫ってきます。四十数年ぶりの見直しですが、再見してその真価を改めて実感しました。監督はジャン=ピエール・メルビル。

 

中学校の放課後でしょうか、生徒たちが校舎の外に出ると雪が積もっている。雪合戦に興じる姿が俯瞰の画面で、暗闇に浮かび上がるように捉えられていく。こうして映画は始まるが、間も無くダルジュロスという少年が投げた雪玉をポールという少年が受けその場に倒れて気を失う。

 

ポールは学校を辞めることになり、病気の母と姉エリザベットが暮らす自宅の部屋に寝込むことになる。姉は何かにつけてポールに悪態をつくものの自室で一緒に寝る。この姉と弟は二人で一人かと思うほどの不思議な関係を見せてきます。ダルジュロスは校長に言いたい放題の悪態をついて退学となる。まもなくして、エリザベットとポールの母は突然死んでしまう。それでも二人は一緒に暮らす。エリザベットはモデルの仕事を始める。やがて、エリザベットは富豪の男ミカエルと結婚するが、ミカエルは事故で急死、莫大な遺産がエリザベットに転がり込む。

 

エリザベットはポールの友人で孤児のジェラールとアガットも含め四人で暮らすようになります。ポールは、学生時代の憧れの少年ダルジュロスに生写しの少女アガットに恋心を抱きます。そして直接話せないので、邸宅内でラブレターを書いて届けようとしますが、あろうことか誤って宛先をポールにしてしまったため、アガットの目に触れません。しかしアガットもポールのことが好きでした。

 

アガットはエリザベットにポールの気持ちを聞いてほしいと頼みます。一方ポールもエリザベットにアガットに届いたと思っている手紙の返事を聞いてほしいと頼みます。ところがエリザベットはポールに、アガットが好きなのはジェラールだと話し、アガットにも、ジェラールがアガットのことが好きだと嘘を言います。さらに、アガットに届けたはずにポールの手紙も破り捨ててしまいます。

 

アガットとジェラールもそれ相応に惹かれていきますが、ジェラールは、たまたまダルジュロスに再会します。そして、ダルジュロスが毒薬を集めているという話をし、毒薬の一つを持ち帰ります。エリザベットはその毒薬を厳重に引き出しになおしますが、あろうことかポールがその毒薬を飲んで瀕死の状態になります。駆けつけたアガットにポールは全てを話します。アガットはエリザベットを責めますが、間も無くポールは死んでしまいます。かねてから置いてあったピストルを手にしたエリザベットは自らピストルで自殺します。こうして映画は終わります。

 

天井から俯瞰で撮る大胆な構図や、美しい雪に景色、極端なクローズアップなどカメラアングルも見事で、しかもクリスチャン・ディオールデザインの服装の数々も素晴らしく、計算され尽くされた美術セットの秀逸さは、ジャン・コクトー原作の味を惜しみなく映像に昇華していきます。まさに傑作でした。