くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「EUREKA ユリイカ」(デジタルリマスター完全版)

EUREKA ユリイカ

三月に亡くなった青山真治監督追悼上映として見にきた。ほぼ二十年ぶりくらいです。改めて見直して、この脚本のずば抜けた出来の素晴らしさに感動しました。地味な物語でかつ三時間半近くあるのに全く退屈しない。物語を語るために徹底的に色分けされた登場人物の描き方が素晴らしい上に、前に前にサスペンスを作り出しながらも、奥の深いドラマを二重三重に描いていく構成のうまさも絶品。セピア調にに現像した映像がラストのラストでカラーに変わる演出もうまい。ストーリー的に好みの作品ではないけれど、超一級品の傑作だと思います。

 

福岡、一台のバスが走って来るところから映画は始まる。最初に、中学生だろうか兄と妹の二人が乗り、続いて次々と乗客が乗るが、サラリーマン風の男が乗ったところでカメラはゆっくりと運転手を捉える。カットが変わり、駐車場に血を流して倒れている人間、バスから飛び出してきた乗客が、背後から何者かに撃たれる。バスの中、運転手の沢井、中学生の兄直樹、妹の梢、そして乗客が乗っている。どうやら、バスジャックにあったようで、駐車場で狂ったような犯人が喚いている。刑事たちがやって来る。犯人は外の空気が吸いたいと沢井を盾にして出て来るが、沢井が倒れた隙にスナイパーに犯人が撃たれる。犯人は致命傷ではなくバスの中に入り、乗客の一人を撃ち、兄妹に銃を向けるが、入ってきた刑事に撃ち殺される。

 

事件の後、被害者のはずの沢井は、トラウマになり、異常な行動をした上、ある日失踪してしまう。直樹と梢の家族にも、興味本位の電話やあらぬ噂が広がり、母は男を作って出て行き、父も自殺まがいの事故で死んでしまう。直樹と梢はどこへも行かず、父の保険金などで二人きりで生活を始める。そして二年が経つ。

 

沢井がこの街に戻って来る。そして友人の土木会社で仕事を始めるが、直樹と梢が二人きりで生活していることを知り、訪ねてみると、ゴミ屋敷のようになっていた。沢井は家を出て、直樹たちと暮らすようになる。そんな頃、女性を狙った通魔事件が起こる。直樹たちの家に従兄弟の秋彦がやって来る。休暇が終わるまで一緒に暮らすことになり、四人の生活が始まるが、たまたま沢井の勤め先の事務員と仲良くなった沢井は、行動を自重していたが、たまたま事務員の部屋に上がってお茶を飲んだ日、その事務員も通魔の餌食となる。当然刑事は沢井を重要参考人として取り調べるが、結局、無罪となる。沢井は留置所にいる時、壁を叩く音に応える。

 

出てきた沢井は、バスで旅に出る決心をし、なけなしの金でバスを買い、直樹ら兄妹と秋彦を乗せて出発する。刑事も見送りにくるがその刑事に、必ず戻るからと告げる。この辺りの刑事の何か影にある演出も素晴らしい。沢井は、まず、バスジャックの現場に車を止めて、ここが出発点だからとスターとする。事件から後、直樹も梢も一言も言葉を発していなかった。ここからはロードムービーの形で流れていくが、阿蘇に行った頃、そこで、女性が殺される事件が発生しているのを秋彦が新聞で読む。その前夜、直樹が夜、行方不明になることがあり、秋彦は直樹か沢井が犯人ではと疑う。秋彦が世間一般の言葉を代弁していく存在として描かれているのもうまい。

 

ある夜、直樹がまた行方不明となり、秋彦と沢井が探しにいくが、沢井は、女性を襲おうとしている直樹を見つけ、それを阻止するとともに、自首するように説得する。直樹は初めて言葉を発して、なぜ殺してはいけないのかと泣く。警察に送り出した沢井はバスに戻る。梢は知っていたようである。

 

途中、軽口を叩いた秋彦を途中で下ろして、沢井は梢と海を見にいく。浜辺で貝を集めた梢は、大観峰に着いた時、母や父、直樹、沢井、秋彦、殺された人、犯人のことを叫んで貝殻を投げる。ようやく言葉が戻った梢を見て、沢井は「帰ろう」と叫ぶ。戻って来る梢の場面からカラー映像に変わる。そしてゆっくりとバスはターンして走り始めて映画は終わる。沢井は中盤から激しい咳をしていておそらく余命幾許もないのであろう。そこには言及せずに終わらせる余韻もうまい。

 

セリフの一つ一つ、登場人物の色分けのうまさ、ストーリー構成の見事さがずば抜けた作品で、非常に静かなドラマにも関わらず、三時間半全く退屈しない。好みの映画ではないものの、クオリティの高さは認めざるを得ませんでした。