くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「犬も食わねどチャーリーは笑う」「ヘルドッグス」

「犬も食わねどチャーリーは笑う」

とっても面白いのですが、練り込んだ部分と、適当に流した部分がちらほら見える脚本がちょっと残念。オープニングのブラックユーモアが、どんどん薄められて行って、次第に普通の感動ドラマに流れていく弱さ故に傑作にはなりきらなかった。でも全体にはそれなりに出来上がっていた楽しい映画でした。監督は市井昌秀

 

ホームセンターで働く裕次郎の姿から映画は幕を開ける。ホームセンターの客としてやってきた日和と四年前に知りあって今は幸せな夫婦生活を営んでいる裕次郎だが、ある時、食堂で同僚の蓑山さんから、旦那デスノートという掲示板を見せられる。しかも、そこに、ハンドルネームチャーリーで書き込んでいる内容が、今朝からの自分の妻とのやりとりが書かれていて、妻の日和がチャーリーであると確信する。しかも、裕次郎らの家にはフクロウのチャーリーを飼っていた

 

一方、コールセンターで働く日和は、掲示板への書き込みが出版社の目に留まり、本になる話が舞い込んでくる。夜、出版社から、掲示板に書き込んでいるメンバー同士の食事会に誘われる。たまたま、裕次郎が遅くなるという連絡をもらった日和はその食事会に行くが、そこで、蓑山と出会う。裕次郎は、部下の一人の女性から色目を使われていて、どうも怪しいので蓑山に見張ってもらうように日和は頼む。裕次郎と日和夫婦は、裕次郎の部下の若槻の結婚式に呼ばれていてスピーチを頼まれていた。

 

ある夜、裕次郎は日和に掲示板のことを詰め寄り大げんかをする。翌日から二人はギクシャクし始める。しかし、とりあえず夫婦で若槻の結婚式に行くが、当の若槻はすっかりマリッジブルーになっていた。そんな若槻を新婦が無理やり連れて来る。いよいよ裕次郎のスピーチになるが、裕次郎は書いていたメモをタクシーに忘れてしまい、上がってしまう。そんな裕次郎に、かつて就活をしていた時裕次郎に教えられた、自分の肘を舐めようとして緊張をほぐすというのを日和がしてあげ、裕次郎はそれをやって落ち着いて喋り出す。

 

裕次郎はスピーチで、自宅にある様々なものは、日和と一緒に選んだものだと切々と話して会場を感動させる。これをきっかけに二人の関係は修復されたかに見えるのですが、ある朝、裕次郎が起きて来ると、母が来ていて、日和に赤ちゃんはまだかと問い詰めていた。日和は一度流産しているのですが、それを内緒にしていたはずが、裕次郎に母は聞いていたことを知って、翌日、日和はチャーリーを連れて家を出てしまう。

 

まもなくして離婚届が郵送されて来る。落ち込む裕次郎は、職場で、かつて日和と出会ったきっかけになった耐震グッズを見にきた客と話をして、自分も変わらないといけないと察して、日和の職場に押しかける。そして、最初は電話で、続いて職場まで押しかけて、紙切れ一枚で変わってしまうシステムに乗る必要はないと大音声に叫ぶ。

 

窓の外にレジ袋が飛んでくる。かつて裕次郎と日和が出会った時、公園で飛んできたレジ袋を二人で捕まえれば幸せが来ると追いかけたことがあった。あの時は捕まえられなかったが今度こそと二人はレジ袋を追いかける。公園の木に引っかかったレジ袋を、裕次郎が力で日和を押し上げて取る。こうして映画は終わっていきます。

 

冒頭のブラックユーモアが、次第に普通の夫婦の物語に移っていくのはちょっと物足りないのと、蓑山さんが途中から完全に中心の話から外れるのも勿体無い。裕次郎を誘惑する職場の女の子が実はトランスジェンダーだったり、ほんのちょっとしたありきたりがちらほら見えるのが残念で、面白いテンポの映画のはずが、あとほんの僅か力を注ぎ込めば傑作だったかもしれない出来上がりになっています。でも楽しい映画でした。

 

「ヘルドッグス」

これは傑作ノワールでした。この手の映画は韓国映画のおはこかと思ってましたが、日本で作ればはるかにクオリティの高いドラマに仕上がっていました。素晴らしいの一言、見事な映画を見せてくれました。アクションの面白さ、ストーリーの骨太さ、妙なリアリティと迫力、しかも、作劇のうまさに圧倒され、ラストまで全く目を離せません。見事でした。監督は原田眞人

 

一人の男がジャングルを進んでいて、とある小屋の男を殺す場面から映画は幕を開ける。この男は兼高と言って、かつて巡査だったが、夜、パトロールしていて、自分が怪しいと思った男たちを職質しなかったためにその男たちは、スーパーに押し入って女子高生らを撃ち殺したことがあり、後悔していた。そしてその時の犯人を独自に探し出して抹殺していたのだ。そしてこの日が最後のターゲットだった。兼高は殺したあと警察に連絡し逮捕されるが、警視庁の阿内は、彼に東鞘会というヤクザ組織に入り込みあるファイルを手に入れることと引き換えに釈放すると提案する。しかも、組織の中でサイコな男だが、兼高と相性が良いとデータが示した室岡と組ませることにする。そして一年が経つ。

 

東鞘会にはヘルドッグスと呼ばれる選り抜きの組織があり、その一員としてみるみる出世した兼高と室岡は、組織幹部の土岐のもとで、組織内の仕事を次々とこなしていく。やがて、組織のトップ十朱専属のボディガードまで上り詰める。兼高に阿内が与えた任務は十朱が持つ秘密ファイルを盗み出すことだった。そのファイルには警察情報のさまざまな書き込まれていたのだ。

 

そんな頃、敵対する組織の陰謀が十朱らに迫って来る。西の関連組織と手を組むために十朱は大金を用意してクラブで交渉に出るが、一人のホステスが怪しいと見た兼高が問い詰めると、それは十朱を暗殺するために送り込まれた刺客だった。なんとかその刺客を倒したが、十朱を狙って敵対する組織の暗殺集団が迫ってきていた。兼高らは十朱を逃すために応戦するが、その際、十朱の腹心だった熊沢が死んでしまう。十朱は熊沢の葬儀を密葬で執り行うが、そこへ向かう車の中で、室岡は、兼高が元巡査であるらしいという情報を聞いてしまう。

 

葬儀の最中、かねてから気に入らなかった三神という構成員を室岡は狂ったように殺してしまい、兼高に逃してもらう。いよいよ任務の最終章が迫っていた。阿内は、かねてから東鞘会の幹部大前田に恨みのあるために近づかせていたマッサージ師の衣笠、土岐の愛人である吉佐、実は彼女も潜入捜査官だった。そして十朱を狙う兼高が最後の任務にあたる。衣笠は大前田を殺し、吉佐は土岐を殺し、兼高は十朱からファイルを手にした上で一騎打ちをして倒してしまう。

 

ところが、警察の犬だと知った室岡は、兼高の恋人でもあった吉佐を拉致して兼高を呼び出す。室岡は、吉佐に銃を向け、自分と彼女のどっちを助けるか選べと迫るが、兼高は躊躇なく室岡を撃ち殺し吉佐を助ける。阿内はファイルを手に入れ、兼高に足を洗っても良いというも兼高は今のままで行くと答える。こうして映画は終わっていきます。

 

とにかく、物語が次はどうなるのかとワクワクするし、ヤクザ組織同士の丁々発止も見事で面白い。その上、岡田准一のアクションもさらに磨きがかかって画面が真に迫って来るし、脇役一人一人に至るまで、役者の最高の演技を引き出すかのように演出されていて隙が見当たりません。とにかく、非の打ち所がない傑作でした。