それほど長い作品ではないが、凝縮されたストーリーと工夫された映像展開が見事なアニメーションで、いつのまにか主人公同様に現実と幻想の世界に引きづり込まれてしまいます。さらにラストはちゃんと締め括ってるから見事。監督は今敏。デビュー作である。
アイドルグループのセンター霧越未麻のステージシーンから映画は幕を開ける。不気味なバイトの警備員が見守る中、全盛期の人気を誇るグループだが、霧越未麻には次のステップとして女優を目指さないかという事務所の田所からの提案があった。いつまでもアイドルは続けられないと考えた未麻は、グループを卒業し女優を目指すことにするがファンの目は厳しく、一部のファンから、爆竹を仕掛けられたようなファンレターが届く。そのファンレターに書かれたアドレスを開くと、未麻の部屋というサイトに繋がり、彼女の行動が事細かに投稿されていた。
アイドルをやめて女優業を始めたものの、なかなか大きな役がつかず、突破口のために、レイプシーンやさらにヘアヌードのグラビアの仕事を受けることになる。そんな未麻を見ている付き人のルミは涙を流す。そんな頃、未麻のドラマの脚本家が殺される。さらに未麻の周りに不気味なファンの姿が見え隠れし、さらに未麻はアイドル姿の未麻を見るようになる。しかし女優の仕事は徐々に順調になっていく。
未麻の周りで不可解な事件が頻発するようになるが、それが今収録中のサスペンスドラマと重なっていて、どこまでが現実か境目が見えなくなってくる。レギュラードラマの収録が無事終わり、みんな打ち上げに向かうことになったが、未麻は不気味な男に迫られる。その男はアイドルとしての未麻を慕っていて、未麻の部屋というサイトの運営者でもあった。その男はドラマのレイプシーンそのままに未麻を襲い、殺害しようと迫ってくる。しかし、すんでのところで反撃、相手を殺してしまう。そんな未麻の所にルミが心配そうに駆けつけるが殺された男はいなかった。
ベッドで目を覚ました未麻は、そこが自分の部屋に似せた別の部屋だと気づく。さらにアイドルの格好をしたルミが未麻になったかのように言葉を投げてくる。未麻はルミが狂った事を知り、必死で抵抗するが、二人は揉み合った末、事故に遭う。目覚めたルミは未麻と自分を混同して精神病院にいた。全ての殺人はルミの仕業だった。そんなルミをガラス越しに未麻が見つめ、1人車で去る。こうして映画は終わる。
前半のゆるゆるした展開からどんどん緊迫感が増し、さらに現実と幻覚が交錯し始める後半の繰り返しの映像に引き込まれてしまいます。そして、見ている私たちも。果たして未麻は現実を生きているのか幻想の中にいるのか判別がつかなくなった瞬間。ラストの真実を突きつけられる。見事な作劇と演出テクニックを堪能させてくれる作品でした。
「大輪廻」
一本の刀魚腸刀を巡って展開する三つの時代の物語を三人の監督が描くオムニバス作品です。それぞれの監督の色が出て楽しめる一本で、シンプルな話なので混乱することはないもののそれほど深みのある映画でもない娯楽作品という感じでした。監督はキン・フー、リー・シン、パイ・ジンルイ
第一話はキン・フー監督作品。明朝の時代、特務機関の隊長が一人の女性を山奥に住む師匠の元へ連れていくが、魚腸刀の魔力で疑心暗鬼になり次々と人を殺してしまう。
第二話はリー・シン監督作品で、時代が少し進み、京劇の役者とその座長、地元の名士の息子との三角関係の話で、嫉妬に狂った座長は舞台上で役者の女を魚腸刀で刺し殺す。
第三話はパイ・ジンルイ監督作品で、現代劇の役者の女が、昔ながらの儀式を司る法師の弟で霊媒師の青年に恋に落ちる。女に夢中になり儀式をおろそかにして、代役で務めた法師は魚腸刀で命を失う。霊媒師の青年は女に台北に誘われていたが兄の法師の死で行けなくなる。台北の舞台で一人稽古をする女の元へ青年がやってきて映画は終わる。
三種三様で、第一話はワイヤーアクションの格闘シーンが素晴らしいし、第二話は時代の変化を描くドラマティックな雰囲気、第三話はトリック映像なども挿入し、時の流れを見せるモダンな映画に仕上がっています。それぞれ楽しめるエンタメ映画でした。
「バーナデット ママは行方不明」
とっても素敵でいい映画でした。少々ご都合主義的なところが見えなくもないですが、ケイト・ブランシェットの圧倒的な存在感で映画が大人の世界に仕上がっています。それでいて奇妙なリアリティよりもファンタジックな色合いが加わっているのがとっても良い。おしゃれな映画です。監督はリチャード・リンクレイター。
南極の海で、カヌーがたくさん漕がれているのを真上からカメラが捉えて映画は始まる。そして五ヶ月前、シアトルの巨大な大邸宅で、建築家だった一人の女性バーナデットが目覚める。なぜか雨漏りがしていて、器用にバケツを置いたりしている。なのに、豪華すぎる室内も見え隠れするけれど、ゴミ屋敷のようなところもある。携帯に声でいろいろメッセージし、メールしたり買い物したりしている。
人と接することが苦手で、隣人のマーガレットから、蔓がはみ出てきているからと苦情がくるが、機関銃のような言葉で言い返しながら適当にいなしてしまう。娘のビーとは大の仲良しで、学校へ迎えに行った車の中で、近づいて来るママたちから逃げ出しては悪態をつきあって笑っている。夫のエルジーはIT起業家で成功し、かなりのセレブらしい。
バーナデットは、かつて天才的な建築家として賞を取るほどで一世を風靡したが、ロスで顧客とのトラブルで逃げ出し、シアトルに来てすでに二十年が経っていた。精神的に参ったままだが自分では気が付かないほど重症になっていて、仕事人間のエルジーはそのことに気がついていない。ビーの提案で家族で南極に行くことになったものの、人嫌いのバーナデットは、通販でいろいろ買って準備するしているが人嫌いの彼女は極度のストレスを抱え、それをマーガレットらに当たり散らすことで紛らわせていた。
そんなある日、エルジーの会社にFBIがやってくる。バーナデットが使っている仮想秘書が実はロシアのマフィアで、全ての個人情報が漏れてしまい大変なことになりそうだというのだ。エルジーはバーナデットの病状が心配で精神科医を呼んで相談している最中だった。早速自宅に戻りバーナデットを待ち受ける。そして医師やFBIと話す中、エルジーとビーが南極旅行へ行く期間、バーナデットを精神科の病院で一時的に入院治療した方が良いと通告する。とんでもないと叫びながらバーナデットはトイレに行くと席を外し、トイレの窓から逃げ出し、絶交状態だった隣家のマーガレットに助けを求める。そして、一人南極行きの飛行機に乗る。
マーガレットからその事を聞いたビーは、バーナデットが自分たちの旅行に合流するつもりだと判断、FBIからロシアの犯罪者も空港で捕まったと聞いたエルジーとビーも急遽南極へ向かう。しかし南極ツアーの船の寄港先は一定していないため、バーナデットの行方ははっきりしなかった。そんな頃、バーナデットはカヌーを漕いでいる時にプランクトンを採取している女性と遭遇、彼女との話の中で、彼女は南極点に行くことが決まっているという。バーナデットも希望するが、彼女も五年申請してやっと許可が降りたから無理だと断る。
南極点へ向かう彼女を見送ったバーナデットだが、物資を運ぶボートを見かけたバーナデットは、何気ないふりをしてそのボートに乗り、南極点へ向かう中継基地に辿り着いてしまう。そこで、南極点の基地の建て替えをしたいと強引に訴える。最初は、所長も反対するが、無理にスペースを作ってくれることになる。バーナデットは一応家族の許可をもらうからと電話をかける。
そんな頃、たまたまバーナデットがいる基地のそばについたビーは、ふとした予感から、その基地にママがいると判断し、エルジーとボートでその基地へ向かう。そこで、バーナデットがいつもやっていた雨漏りのバケツを見かけて、探すうちについにバーナデットと再会する。バーナデットが南極点へ向かう二時間前だった。エルジーは、会社を辞めてフリーになっていた。そして、バーナデットにお守りのロケットを渡す。こうして映画は終わり、エンドクレジットにバーナデットが設計した南極基地がみるみる完成していく様が映される。
バーナデットがシアトルに来た原因の描写や、病気の詳細、エルジーの背景など諸々の表現がやや曖昧で見えないのが気になるけれど、さりげない景色や色彩演出がとってもセンスが良くて、一見小憎たらしいキャラクターのバーナデットがケイト・ブランシェットの好演で、憎めない存在になっているし、ビーもエルジーの存在もさり気なく映画をオシャレにまとめているのがいい。上品な映画でした。