「キリング・オブ・ケネス・チェンバレン」
映画というのは恐ろしいものです。実話ではあるけれど、演出の仕方によって、正義にも悪にも変わってしまう。確かに、この作品で警察は100%悪でケネスが100%正義で弱者であるかに徹底した表現がなされている。しかし、ドアの向こうが見えない警官にとって、開けてもらえないことは恐怖であり、確認することは職務でもある。事実暴言も差別発言もあったのだろう。しかし、そこに至る警官としての立場をしっかりと描ければ傑作になったであろうと思う。フィクションとしての映像演出はなかなかの仕上がりでしたが、作品としては良くない。監督はデビッド・ミデル。
スラム街だろうか、一人の黒人ケネスが早朝、自身についているライフガードのペンダントをつい外してしまう。管理しているライフガード社から異常を知らせる通報があったと連絡がくるが、夢うつつのケネスは、何のことかわからない寝ぼけた回答をする。間も無く、安否確認のために三人の警官が来る。元海兵隊で今は精神不安定で治療を受けているケネスは、警官を信じることができず、帰るように訴える。そして、ライフガード社へ誤報したことを知る。
執拗に、ドアを開けるように訴える警官に、ケネスはかえって不審に思い始め、頑としてドアを開けない。このやり取りの中で、ケネスの精神状態は不安定になり始め、妄想を抱くようになる。一方警官も、この地域が犯罪多発地域でもあり、ドアを開ける単純な要請にも応えてくれないケネスに不信感を抱き始める。警官の一人は感情的になり始め、新人の警官は、やりすぎずに待とうと提案するが、チーフの警部補は受け入れない。
ケネスはライフガード社を通し、姪にも息子にも連絡をするが、姪が来ても警官たちはケネスとの接触を許さなかった。どんどんお互いの感情がエスカレートし、警官はレスキューを呼んでドアを破る作戦に出る。ケネスはドアの前にバリケードをして応戦するが、ついに警官が突入、ケネスは押さえつけられ、最後は殺されてしまう。テロップで、実際のケネスの姿や息子のインタビューが流れて映画は終わる。
完全にケネス側からの偏見の塊の映画である。それは、映画として作られた時点で、実話はフィクションに変わるからである。当然脚本家の視点、演出家の視点が映像に反映してくるので、この作品の場合は、ケネス擁護の一方的な視点から描かれている。しかし、一歩下がって、警官の立場からの視点を想像してみたら、この映画はもっと優れたものになったと思う。もちろん、道徳的に問題のある警官だったかもしれないが、それだけではないという何かが見えたと思う。その意味で、好きな作品ではありません。
「アリスとテレスのまぼろし工場」
映画は技術だけではないことを全くわかっていない作品。確かに個別の絵やシーンは美しいが、全体がダラダラとしたストーリーと、ありきたりなキャラクター、個性のない登場人物、平凡な設定とアイデアに辟易としてしまう作品でした。まず脚本が悪い。ポイントを絞っていない展開のため描きたい何者かが全く見えてこない。しかも、主人公となるべき核が見えないので、物語が散漫、さらに、子供レベルの知識で描かれる物語の背景には参ります。もうちょっと大人のレベルで優れた物を作ろうと思って欲しい。少しは期待したが、絵ばかりが綺麗で残念な映画でした。監督は岡田麿里。
正宗ら四人の中学生が一緒に受験勉強をしている場面から映画は始まる。突然外で爆音がしたので覗いてみると、彼方の製鉄所が大爆発を起こし、空がひび割れたようになっていた。次の瞬間、四人は元の姿で勉強をしているが何かが変わったことを正宗は知る。製鉄所の事故でこの一帯の時間が止まり、さらに外の世界とも隔離されて、変化しない世界が出来上がった。少しでも夢を見たり変わろうとすると、不気味な竜の雲が現れ消されてしまう。こうして時が止まったまま時が流れる奇妙な空間での生活が始まる。
正宗はクラスメートの睦実に誘われて製鉄所の一角に連れて行かれる。そこには言葉の喋れない少女がいた。睦実は交代で彼女の世話をして欲しいと正宗に頼む。正宗はその少女に五実と名付けて世話をするようになる。やがて五実は外の現実世界からきたことがわかる。正宗らは彼女を元の世界に戻すべきだと考えるが、どうやら五実は正宗と睦実の子供らしい。という中心の話はこれのようだが、五実の存在を神の少女だと喚くキャラクターや、正宗の父が竜の雲に消されたくだり、正宗の父の日記に残された意味ありげな物語などなどがとめどなく適当に挿入される。
正宗と睦実がキスしているところを五実が目撃し、何やら五実は正宗が好きらしくショックを受けて現実世界に戻りたがらなかったり、現実世界では娘がいなくなった未来の正宗らのエピソードをちらつかせたり、それでも、無理やり五実を列車に乗せて現実世界に送り出す睦実と正宗の行動に、正宗の叔父が、製鉄所を再度動かしてみると張り切ったり、結局、何もしなければこの世界は壊れることはないけれど、行動を起こすと空にひび割れが起こり壊れて行くというサスペンスもどうでもよくなるクライマックスの展開も弱い。無事五実は現実へ戻り、正宗と睦実は普通に痛みを感じる恋人同士になって映画が終わる。
駄作の極みの一本で、せっかくの美しいアニメが死んでしまっている。あまりに技術頼みの作品なのが残念すぎる映画でした。。