くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「L.A.コールドケース」「きっと地上には満天の星」

「L.A.コールドケース

ラッパーのノートリアス・B.I.G射殺事件を扱ったドラマで、実話に基づいたサスペンスなので面白いのですが、いかんせん脚本が悪いのか人物の整理がうまくできていないのとサスペンスの筋立てが整っていないために、この事件の全てを知っている前提でないとついていけないストーリー展開になっていて、終盤までその流れが掴めないままの作品でした。監督はブラッド・ファーマン

 

一人の白人の男が通りを車で走っていると、大音響で黒人が運転する一台の車が近づいてきて隣に止まる。思わず目を合わせた白人の男に悪態をつく黒人の男、相手にしないつもりで逃げようと走らせる白人の車に黒人の車が執拗に追いかけてくる。そしてとうとう銃を撃ち合い、白人の男は黒人の男を射殺、白人の男は警官だったが、麻薬捜査で覆面捜査をしていた。黒人の男も警官だった。こうして物語は始まる。

 

1997年3月、人気のラッパーノートリアス・B.l.G.(クロストファー・ウォレス)が何者かに射殺される。その数日後上記の警官同士の銃撃事件が起こりこの二つの捜査を始めたロス市警のプール刑事だが、調べれば調べるほどにロス市警の汚点が見え隠れし始める。黒人の闇組織との癒着、証拠物件のずさんな管理、レコードレーベル同士の諍い、警官との癒着、さらに白人の黒人への不当な蔑視が絡み、プールは辞職後18年経ってもウォレスの事件を追っていた。そんな彼に、一人の新聞記者ジャックが近づいてくる。ジャックもまたウォレスの事件を独自に追っていた。

 

二人はこれまでの事件の経緯を再度洗い直すが、見えてくるのはロス市警の裏の実態ばかりだった。この展開がなんとも複雑で整理されていないために、脈絡が見えてこない。結局、プールとジャックの人間関係が深まっていくくだりも見えづらく、ジャックがプールの退職後に出された捜査令状を発見してプールに提示、プールはそれをもって単独ロス市警へ行くが、その場で心臓麻痺で死んでしまう。悔しさに行き場のないジャックの姿から映画はその後をテロップして終わっていく。

 

もう一度整理して見直せば各シーンが理解できるかもしれませんが、どうもストーリーテリングが上手くない。もったいないというほどでもないのですが、演出力の弱さもあるかもしれません。

 

「きっと地上には満天の星」

描きたいメッセージを90分に凝縮させた、これ以上ないくらい辛くて切ない映画でした。暗い画面とギリギリまでよった手持ちカメラと、編集のテンポだけで見せる主人公の心理描写の映像は見事な物でしたが、いかんせん、とにかく辛いお話でした。監督はセリーヌ・ヘルド&ローガン・ジョージ。

 

地下鉄の線路のさらに底の待避エリアの空洞に住む五歳の少女リトルの姿から映画は幕を開ける。母のニッキーは薬中らしく、日々の生活のために体を売っているらしい。仕事を終え地上から戻って来る母を迎えるリトル。羽が生えたら途上に上がることができると母に教えられているリトルは、この日も母に羽が生えてきたか聞く。

 

同じく地下で暮らし、ドラッグの売人もするジョンのところへ時々遊びに行くリトル。ジョンはリトルが算数もまともにできないことに危惧していたが、ニッキーはリトルと離れるのが嫌なので、施設に預けようとはしなかった。

 

間も無くして、市の職員がトンネルで暮らす人たちを強制的に退去させようとやってくる。ジョンが時間を稼ぐ間にニッキーとリトルはトンネルを脱出するが、初めて見る地上の世界にリトルは混乱してしまう。ニッキーはリトルをあやしながら、売春組織の客引きをするレスのところへやってくる。そして、なんとか一息つくが、レスはリトルも商売道具にしようとしてくる。ニッキーはレスに注射器を刺してリトルと逃げるが、地下鉄に乗り込んだときに、ちょっとしたタイミングでリトルはホームに残されてしまう。

 

別れ別れになったニッキーは狂ったように列車を乗り継いでリトルを探すが見つからない。数時間探した末、諦めたニッキーはトンネルに戻り、ジョンのところで薬を盗み再び地上を目指すが、ジョンに呼び止められ、そろそろ限界だとリトルを手放すことを勧められる。

 

諦めきれないニッキーは地下鉄に戻り、たまたまきた列車に乗るが、そこで客席の下に隠れているリトルを見つける。しかし、ニッキーは声をかけることを躊躇う。そして駅で列車を降り駅員に客席の下に少女がいることを通報、リトルが警察に保護されるのを見届けて、列車に乗る。こうして映画は終わります。

 

ニッキーがリトルを狂ったように探す場面の細かいカット編集とカメラアングルの切り替えが凄まじく上手く、人物をギリギリに寄って捉える緊迫感も見事なので、ラストのバストショットになるニッキーのなんとも言えない決断にたまらなく胸が熱くなります。ニッキーとリトルのほんの一瞬の時間を凝縮して切り取った映像作品で、その一瞬の前後をバッサリと削除したストーリーも上手い、その意味では見事な作品でした。