くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「こいびとのみつけかた」「愛にイナズマ」

「こいびとのみつけかた」

ほのぼのしたファンタジックなラブストーリーかと思っていたのですが、ちょっと珍妙な映画だった。さりげなく挿入される社会記事を聞かせる展開が妙に鼻につき始めるのは私だけでしょうか。ストレートに好きになれない映画という感じで、それがどこに原因があるのか掴めないもどかしさで最後まで行きました。監督は前田弘二。

 

植木屋の手伝いをしているトワが公園で仕事をしている場面から映画は始まる。いつもいくコンビニの店員園子に実は惹かれていて、同僚の脇坂や大沢に相談するも今ひとつ的確なアドバイスがない。トワは園子が自分の所にたどり着くように枯葉を道に並べることを考える。まさかと誰もが思っていたが、なんと園子はトワの思った通りに現れる。そして少し世間に馴染めない二人は急速に仲良くなる。

 

トワはいつもポケットに雑誌の切り抜きを詰め込んでいて、話題がなくなると取り出しては読み上げたりする。そんな行動が園子には面白かった。園子は倉庫のようなところで新聞紙を使った造形動物を作っていた。ある夜、トワは園子を自分の家に案内する。そこはブルーシートで覆われた小屋だった。住んでいたアパートが取り壊され、新しいアパートにも越せずにとりあえずこんな所に住んでいるのだという。

 

ある嵐の夜、トワは脇坂を殺す夢を見て目が覚める。なんと風でブルーシートが飛ばされていた。トワは園子の倉庫にやってきて二人は一夜を共にするが、本当に一緒に寝ただけだった。周囲とは少し感覚がズレた二人はその会話を楽しむように付き合うが、ある時、園子は作った動物の造形を壊して、帰らなければと叫んで倉庫を飛び出す。待っていたのは園子の夫だった。トワは納得いかないままに園子夫婦の家まで着いていくが、そこで結婚式の写真を見せられ、その家を後にする。園子は最近死産をし、そのショックで夫と一時別居していたのだ。又トワの両親はいつも喧嘩していて、トワは両親が喧嘩するたびに山積みの雑誌を読んで隠れていたのだ。

 

園子に会いたいトワは、園子が壊した造形を修理する。園子はいつものように夫を仕事に送り出し、買い物に出かけると道路に枯葉が並べられていた。いったんは無視するが、気になって引き返し枯葉を辿りトワと再会する。園子は、トワのことは好きだけれど夫の元に戻らないといけないと、これからも話し合う友達でいようと言う。トワもそれに納得、幼い頃から通っている床屋に園子、その夫、床屋の友人達園子の友人達が集まる。その席で、トワはかつて園子が弾いてくれたキーボードで「おかえりただいま」という曲を披露して映画は終わる。

 

ストレートにほのぼのした物語を感じられない、どこか理屈っぽい何者かが見え隠れする映画で、トワが取り上げている雑誌の記事は皆、社会問題に関するものが多いのが原因なのかもしれない。もうちょっと素直に感動させる作品であったらもっと好きになっていたかもしれない映画でした。

 

「愛にイナズマ」

面白い脚本を書いたつもりが、それが役者に伝わっていないのか演出の意図が理解されていないまま走ったのか、こんなに松岡茉優が下手くそやったかと思える映画会社部分の前半部分が惜しい。果たしてあの部分が必要だったのかと思えるほど、ホームドラマになってからの後半が普通にいい映画になっていくのはどうなんだろうと思える映画でした。監督は石井裕也

 

駆け出しの映画監督を目指す花子はプロデューサー原の言葉に乗って、自分の母の物語を中心に家族の映画の企画が認められ、1500万という資金ながら監督としてデビューを目前にしている。花子は子供の頃からカメラを持ち歩き、この日も飛び降り自殺しようとする現場に出会して、ヤジを飛ばす男の姿を捉えようとしていた。そんなリアルな現実を映画に取り入れようと提案するが、頭の硬い助監督荒川やプロデューサー原に猛反発を食って辟易としている場面から映画は幕を開ける。おそらく、石井裕也の本音場面ではないかと思えるような展開が続く。

 

そんな花子は、喧嘩の仲裁に入って殴られた正夫と行きつけのバーで出会う。正夫は食肉工場で働く青年だった。花子は正夫の友人で俳優志望の落合も引き入れて映画のロケハンを始めるが、ロケ先の病院で、人間ドックを受けさせられることになる。何かにつけて荒川と衝突していた花子は病気だとされて監督を降板させられ荒川が監督になってしまう。しかも落合も同時に降板させられ、落合はショックで自殺してしまう。しかし花子はめげることはなく、正夫に背中を押されて、正夫の資金で本当の家族を使って映画を撮影することを決意する。

 

花子は長らく連絡をしていなかった父治に連絡をし、兄で社長秘書をしている長男誠一、次男で教会勤めの雄二を誘って撮影を始めるが、何かにつけ諍いが起こってしまう。治は実は胃がんで余命一年と言われていたが子供達に話すタイミングを逃していた。かつて傷害事件を起こした治のイメージしかない子供達はいまだに父に反感を持っていた。亡くなったと言われている母美樹の真実も聞かされていなかった。

 

ある夜、子供達が集まる中、治は契約だけ残している母美樹に電話することにする。実は美樹は傷害を起こした修の元を離れ別の男と二十年間生活していたのだ。電話がつながり出たのは今の美樹の夫だった。そして美樹は三年前に亡くなったことを知る。治と子供達はかつて家族で出かけた海沿いの海鮮食堂へいく。そこの主人則夫は修の幼馴染で、誠一らとよく遊んだ則夫の娘が男に騙され自殺した時、治はその男を半殺しにして傷害を負わせた事を子供達は初めて知る。その事件で自暴自棄になった治に愛想をつかせて美樹は家族の元を離れたのだった。則夫にとって治は恩人だったのだ。そして則夫がつい治は余命一年だと漏らしてしまう。

 

家に戻った夜、雷鳴の中停電してしまう。治がブレイカーを戻そうとするが、みんな一緒にいることを確認して暗転、一年後になる。治はすでにこの世にいなくて、花子達は治の骨を母美樹と同じくフェリーから散骨することになっていた。そういえばみんなでハグしたことがないという言葉に、正夫は一年前の停電の日、みんなで抱き合って酔っ払った治を寝かせた映像を見せる。仕事に戻った誠一は社長に花子を馬鹿にされついキレてしまう。雄二は教会で治と会話をする。花子はきっと映画を完成させると正夫に断言する。こうして映画は終わる。

 

とにかく終盤がしつこいほどにくり返しが多く、ちょっとダラダラ感が目立つが、前半の映画会社でのエピソードをカットすればキレのいい映画になっていたように思います。ただ、おそらく石井裕也は前半を描きたかったのではないかと思えるのです。後半のハートフルホームドラマ部分は正直なかなかいい感じで感動させてくれたのですが、映画全体としては中レベルの仕上がりになった気がします。