くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヨーロッパ新世紀」「焼け石に水」

「ヨーロッパ新世紀」

これは難しい映画だった。ルーマニア語ハンガリー語、その他を色分けして字幕を出すあたり、そもそも覚悟が必要だったのだろう。民族的なことも、社会的なことも歴史的なことも、ルーマニアトランシルバニアという地域性を理解していないと本当の真価はわからない気がします。ストーリーはわかるのですが、その意味するところがかなりシュールな表現で描かれているのも確かにすごいとは思える、そんな映画だった。監督はクリスティアン・ムンジウ。

 

一人の少年ルディが森を歩いていて何かを見つけて逃げてしまう場面の後タイトル。自国ルーマニアを離れて出稼ぎに来ているマティアスは、ジプシーと罵られたことから同僚に怪我を負わせそのまま故郷へ逃げ帰ってしまう。ジプシー=定住せずにさまざまな地域を渡り歩いている存在的な表現である。

 

トランシルバニアの村に戻ったものの妻アナも息子ルディも言葉が喋れなくなりよそよそしい。マティアスは元恋人で地元パン工場の副責任者のシーラを訪ねていく。シーラの工場では新たに五人の従業員が必要だが十分な賃金が払えない中、地元住民の応募がなく、仕方なくアジア系の出稼ぎを雇うことになる。しかし、地元住民は移民に対して執拗に拒否反応を示す。

 

マティアスは、シーラへの思いというかSEXへの欲望を抑えられず、間も無く二人は体の関係だけで会うようになる。しかしマティアスにとっては男の威厳を取り戻した気がしていた。一人で学校へも行けないルディに逞しく育つようにと男らしさを押し付けようとするがアナの反感を受ける。マティアスの父パパ・オットーは脳に問題があり病院で検査などをする。外国人労働者が住まいするところでシーラらが食事をしていると火炎瓶が投げ入れられたりし、労働者はシーラの家に引っ越さざるを得なくなる。まもなくして、パパ・オットーは森で首吊り自殺する。

 

パン工場の従業員への住民の反感は募り、署名運動まで発展するに及び住民集会が催される。何事も中立というか介入を避ける牧師の主導で開催され、さまざまな民族感のある村民達やシーラら工場側、さらには唯一海外出稼ぎの経験者であろうかというマティアスらの発言が延々17分の長回しで描かれる。そして、シーラから愛想尽かされ、預けた猟銃を突き返されたマティアスは、シーラに銃を向け、森に走る行方不明の外国人従業員の一人を追って入っていくと熊のぬいぐるみを着た住民が現れる。こうして映画は終わっていく。

 

ラストのシュールさももちろんですが、全編に散りばめられた暗喩の数々、メッセージの数々の面白さを堪能できる作品で、その意味で、全て把握できたか語れない一本でした。

 

焼け石に水

ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの四幕の舞台劇を映像化したもので、一人の男の部屋に引き込まれて抜け出せなくなる不条理劇のような一本でした。面白いといえば面白いし、舞台劇だと割り切ればそれまで、さりげないユーモアもわからなくなはないけれど、その辺りのキレは少し物足りなかった。監督はフランソワ・オゾン

 

フランツは恋人アナとのデートに向かう途中、なぜか中年男のレオポルドに誘われ彼の部屋にやってきたところから映画は幕を開けます。男性を恋愛対象にしていなかったフランツですが、いつの間にかレオポルドと体を合わせる展開になって第一幕が終わる。

 

第二幕では、それまでレオポルドが主導権を握っていたのが逆転し、フランツがさまざまを仕切り始めて、それでもベッドで同じく愛し合って終わる。

 

第三幕では、二人の関係は次第にギクシャクし始め、それぞれが出ていく出ていかないと言い始める。突然、ヴェラという女性が訪ねてくるが、フランツは面識がないのと、たまたまレオポルドが仕事で留守だったのでヴェラは帰っていく。

 

第四幕で、レオポルドが仕事で留守の間にフランツの恋人アナが現れ、この部屋を出ていくことになるが、なぜかアナもこの部屋が気に入り出ないと言い出す。そこへレオポルドが帰って来る。レオポルドはアナの心を掴んでしまい、アナも満更ではなくレオポルドに惹かれる。そこへヴェラがやって来る。レオポルドに気に入られようと性転換したかつての恋人だった。こうして四人の入り乱れた関係が始まる。

 

ヴェラとアナはレオポルドにすっかり惹かれ、取り残されたフランツは毒を飲むが、アナに夢中のレオポルドの元からヴェラが離れ、フランツの死に際に出くわす。やがてフランツは死に、レオポルドはアナとのSEXに戻っていく。ヴェラは窓を開けようとするが窓が開かずそのままカメラが引いて映画は終わる。

 

なぜか、部屋から出られなくなる、一人の男から離れられなくなる不可思議さを面白おかしく描いた作品で、シンメトリーな画面を徹底した構図がなかなか面白いし、ユーモア交えた展開も楽しい作品でした。