くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「しあわせはどこに」(西河克己監督版)「青春怪談」(市川崑監督版)「死の十字路」

「しあわせはどこに」

一昔前の連続テレビドラマという感じのメロドラマで、その意味で懐かしさに酔ってしまう空気感がとっても良い。決して出来のいい映画ではないものに、一昔前のノスタルジーに浸れる一本でした。監督は西河克己

 

主人公橋爪淳子がある会社の面接に来ているところから映画は始まる。両親がいない彼女は伯父夫婦のもとで暮らしていて、それがこれまでの面接で全てマイナスだった。まさに時代である。たまたまこの会社の得意先の男志村と廊下でぶつかり、その縁でこの会社に就職できる。電車の中でたまたま知り合った松尾という青年と同じ会社であることがわかり、二人はそれとなく惹かれ始める。映画はこの二人の恋愛物語と、死別したと思っていた母ふみ代が生きていたこと、さらにいかにもチンピラの伯父に絡まれていく流れが入り乱れての展開で進む。

 

叔母が交通事故で亡くなり、金の亡者の伯父は淳子を金にしようと迫ってくる。死んだと思っていた母は、戦時中の事故で殺人事件を起こし刑務所にいた。母と再会した淳子は母に思いを告げ、松尾との結婚へ進んでいくが、松尾は鳥取の材木会社の御曹司という設定ながら、ほとんど意味なく、一方会社での三角関係の恋愛劇から生まれた書類紛失事件もいつのまにか有耶無耶になって、ラストは伯父に拉致された淳子はを松尾らが助けてハッピーエンド。志村もふみ代と旧知の関係だったらしく、この二人も結婚へ進んでまさにあれよあれよと適当に前に進む展開で締めくくる。

 

なんのことはない、ただの連続メロドラマですが、そんな適当さがやはり楽しい。

 

「青春怪談」

こういう洒落た映画がなんで今作れないと思う一本。とにかく、お話が実に面白い。原作があるのでそこは原作の力かもしれないが、展開のテンポ、カメラワークのコミカルさに笑いが止まりませんでした。これぞモダンコメディと言わんばかりの作品でした。しかも、出てくる俳優の層の厚さにそれだけでも見応え十分。本当にうまい映画でした。監督は市川崑

 

時計の修理が趣味の奥村哲也、そこに息子慎一の嫁にとやってきたのが慎一の母蝶子、哲也が蝶子の前にやってきて映画は幕を開ける。ところが、蝶子は哲也に一目惚れしてしまう。息子の事は二の次に哲也に引き込まれる蝶子、この二人の会話シーンをカメラアングルを変え、細かいカットの連続で切り返していく演出が見事。

 

蝶子の息子慎一は今風で、洋食好きなモダンな青年、パチンコ屋を経営し、病院の御曹司だが病院を貸していて家賃をとっている。顔立ちがニ枚目なので、バーのマダムトミの世話をしたり、芸者にパチンコ屋を売る話が出たりとモテモテだが本人にその気は無い。一方哲也の娘千春はバレエに打ち込んでいて、哲也とは幼馴染ながらも恋の相手に考えたこともない。しかし、蝶子と哲也の努力もあり、又父の哲也が自分の結婚が決まるまで再婚しない風だと思った千春は結婚を決め、慎一と千春は婚約する運びとなる。

 

ところが千春を慕う後輩の新子は慎一に嫉妬した挙句喀血して入院してしまう。さらに慎一に裏切られたと思ったバーのマダムトミは千春が実は男だというようなスキャンダルをマスコミに送ったりして慎一と千春の結婚を邪魔してくる。そんな流れを淡々と描くリズム感がとっても楽しい。

 

そんな中、哲也に冷たくされたと思った蝶子は塞ぎ込んでしまう。千春と慎一は蝶子と哲也をなんとか結びつけようと躍起になり、堅物の哲也はとうとう蝶子にプロポーズする。ところが千春と慎一はいったん婚約したものの白紙にしようと決め、予約していた式場は蝶子と哲也の結婚に譲ってしまう。そんなこととは知らずトミが式場へ怒鳴り込んできて千春に詰め寄るが、誤解していたことを知りすごすご引き下がる。

 

海岸で、千春は自分はちゃんと女だと話し慎一を安心させ、親同士の結婚を祝福して、自分たちはこれから考えようとなって映画は終わる。

 

不思議な程にモダンで洒落た物語と、カメラ編集のリズムで見せる演出の面白さ、次々出てくる役者陣の多彩さにのめり込むほどに笑ってしまいます。こういうレベルの映画が本当になくなったと思う一本でした。

 

「死の十字路」

シンプルかつ安直なサスペンス映画ですが、役者たちが一生懸命演じているし、これでもかというあざといホラー演出とカメラワークがとにかく娯楽映画とはこういうものだと見せつけてくる面白さがあります。B級レベルかもしれないけれどとっても面白かった。監督は井上梅次

 

伊勢商事の社長伊勢省吾が車で夜の道を走っている場面から映画は幕を開ける。着いた所は、秘書で愛人の晴美のアパートだった。省吾の妻友子は新興宗教にハマっていて、省吾らを脅してくる手紙を送りつける。そしてこの夜、突然晴美のアパートに押しかけ、晴美を殺そうとする。省吾が止めに入り揉み合ううちに友子を殺してしまう。省吾と晴美は死体を隠すことにし、たまたまダム建設の現場があり、ダムに沈む村の井戸に突き落とそうと考える。

 

一方、妹の結婚相手真下と飲んでいた相馬という男は真下と揉み合いになり頭を打ったまま夜の街に消える。そんな頃、死体を積んで車で走る省吾は、交差点で追突事故を起こし、派出所へ行き示談の話をしているが、そこへ相馬がふらふら通りかかって省吾の車に乗り込んでしまう。そんなことを知らない省吾はダム現場に向かうが、後部席で死んでいる相馬を発見、二つの死体をダムで沈む村の井戸に投げ込む。

 

兄がいなくなった相馬の妹芳江はたまたま知り合った兄にそっくりの探偵南に兄を探す依頼をする。南は警察のコネなどを使って、省吾の妻友子が相馬がいなくなった日に自殺したこと、相馬が省吾の車に乗ってしまったことなどを嗅ぎつけ、目撃者の浮浪者を見つけた上、証拠となる友子の靴を持って省吾と晴美を脅す。省吾は金を払うからと南を車に乗せて、車内で南を殺し自宅に戻ってくる。ところが自宅には警察が来ていて、本物の友子の靴が発見されたこともあり省吾を逮捕しに来ていた。

 

省吾は最後に晴美に電話したいと言い、寝室で刑事の前で、南から奪った拳銃で自殺、それを電話口で聞いた晴美は窓から飛び降りる。こうして映画は終わる。

 

結局相馬の妹の存在はどうなったのというエンディングですが、こういうぶっきらぼうに作ってくる映画はある意味単純に面白い。しかも、役者それぞれが一流なので映画が陳腐にならないのがいい。これが映画全盛期の娯楽映画というものですね。面白かった。