くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「天上の花」「夜、鳥たちが啼く」

「天上の花」

荒井晴彦のバイタリティ溢れる脚本が演出で描ききれなかった感じで、サイコなホラー映画の如き終盤の展開はちょっと力不足を感じました。時間が前後するジャンプカットが最初は戸惑ったものの、東出昌大の狂気の演技だけが妙に際立った。人間の心には表と裏があることがちゃんと含んだ演出ができればと思いました。決して凡作ではないものの、勿体無い映画でした。監督は片嶋一貴

 

時は昭和19年福井、海岸で嬉々として遊ぶ三好達治の姿から映画は幕を明けます。16年7ヶ月思い続けた一人の女性慶子を待つ三好達治のセリフから時は昭和二年に遡る。恩師萩原朔太郎を訪ねて三好は朔太郎の妹で、離縁されて実家に戻った慶子と出会い一目惚れしまう。しかし、生活できるほどの仕事もない三好には慶子との結婚は難しく、まもなくして佐藤春夫の姪と結婚することになる。慶子も結婚するがしばらくしてその夫は亡くなってしまう。

 

時が過ぎて、朔太郎はこの世の人でなくなり、その葬儀の場で三好は慶子と再会する。元々関係が覚めていた三好夫婦は妻と離婚し、朔太郎の三回忌に福井に連れて行きたいと慶子に告げる。時は日米大戦勃発、東京を逃れて田舎に着いた慶子だが、自分を束縛する三好の態度にだんだん辟易とし始める。しかも、嫉妬深い三好は何かにつけて慶子に暴力を振るうようになる。

 

慶子は近所に住む三好の友人のところに逃げ込むが、その度に三好に連れ戻され、さらに逃げ込んだ友人宅の妻にも耐えるようにと諭される。この辺りからサイコな三好に追い詰められる慶子のホラー映画のようになってくる。何度目かの逃亡で、慶子は三好に大怪我させられ、とうとう、友人らの助けで家を出ることになる。

 

時は経ち、第二次大戦も終わり、世間も落ち着く。昭和三十九年、三好も亡くなり、慶子のところに、最後に出ていく時に三好が返してくれなかった着物が届く。最後まで三好が大事にしていたのだという。こうして映画は終わる。

 

三好が慶子と出会った頃、慶子と暮らしている福井の場面と、突然入れ替わる編集に当初は戸惑うのだが、それが次第に映画に迫力を加えていく。さすが荒井晴彦脚本とは思うのだが、登場人物の一面だけを描く演出で、どうにも人物に厚みが出て来ず、サイコホラーのような作りに見えてしまったのは残念。面白い作品だと思うのですが、後一歩ですね。

 

「夜、鳥たちが啼く」

淡々と描く男と女の物語という感じで、どこか艶やかさが漂う映画の雰囲気は流石にうまい。ただ、ほんの後一歩物足りなさを感じたのは何かが足りない。でもいい映画でした。監督は城定秀夫。

 

夜、慎一がビールケースを近くのプレハブの建物に運ぶ、そばで飼われている鳥が発情期なのかやたら泣き叫ぶ場面から映画は幕を開ける。翌朝、裕子が息子のアキラと真一の家に越してくる。夫と離婚して家を出た裕子は、次の住居を探すまでの間、裕子の夫の職場仲間だった慎一の家に居候することになったのだ。

 

慎一の家のそばにプレハブがあり、作家でもある慎一はそこで原稿を書いていた。かつて慎一も恋人文子と一緒に住んでいたが、嫉妬深い慎一は文子に愛想を尽かされ、今は一人だった。

 

物語は、慎一と裕子、アキラの三人の日常が過去をフラッシュバックさせながら淡々と描かれる。ライブスタジオの音響スタッフのバイトをしていた慎一は同僚の邦博に親しくしてもらっていた。邦博には愛する妻裕子と息子のアキラがいたが、邦博が浮気をし、裕子は離婚した。裕子は毎晩、アキラが寝た後、男とその場限りの夜遊びを繰り返していた。

 

そんなある時、夜、アキラが、ひとりぼっちなのを知った慎一はアキラとしばらく過ごす。帰ってきた裕子と話をし、やがて二人はお互いの生き方を見直し、三人で海に遊びに行ったり、次第に親しくなっていく。まもなくして、慎一と裕子は体を合わせるが、裕子にとってはそれ以上になるつもりはなかった。たまたま公園で、慎一はアキラがクラスメートと遊ぶのを手助けしてやり、いつも一人で見にいく草野球に行く約束をする。その球場で花火大会があると聞いた裕子らは慎一を誘う。

 

三人でピザを食べ、アキラがトイレに立った時に、慎一は裕子に、結婚していないけれど家庭内別居で暮らそうと提案する。そして三人は花火の後、家に帰る。それぞれの建物に別れた後、裕子は、だるまさんが転んだと呟き、慎一が戻るのではと思うが慎一はプレハブに入って執筆を始めていた。アキラに呼ばれて家に入る裕子、慎一を窓から捉えたカメラがゆっくりと引くと、三人で行った花火会場に少し時間が戻る。花火が上がり映画は終わっていく。このラストの処理が上手い。

 

最後の最後に二人が体を合わせるタイミングが実に上手いし、濃厚なベッドシーンながら、それまでを淡々とつかず離れず描くシーンの数々とのバランスがいい。映画全体がどこか覚めた中に艶やかさを漂わせ、さらに、家族というものの温かさもさりげなく見せてくれる。いい映画でした。