くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「不安は魂を食いつくす」「658km、陽子の旅」「シモーヌ フランスに最も愛された政治家」

「不安は魂を食いつくす」

絵作りがしっかりしてめちゃくちゃに美しいし、物語の展開も軽妙に洒落ていて、とっても面白い作品でした。どこかウィットがあるようで実は軽く流すさりげなさがいい。監督はライナー・ヴェルナー・ファスビンダー

 

初老に差し掛かっている一人の女性エミが、行く当てもなく一軒のバーに入ってくる。彼女を見たバーのオーナーの女性や、モロッコ人の男性アリたちの視線の中、エミはコーラを注文する。オーナーらに言われて、アリはエミをダンスに誘う。アリは紳士的にエミに接し、エミを自宅まで送るが、雨が降ってきたので泊まることになる。アリは同僚五人と一緒に部屋で暮らしているという。アラブ人というだけで蔑まれて、何かにつけて辛いこともあるとエミに話す。一夜を過ごしたエミとアリだが、お互いいつの間にか愛し合っていた。

 

レストランに食事に行き、勢いでエミはアリと結婚することになっていると言ってしまい、アリも同じ気持ちだと言われてあれよあれよという間に二人は入籍する。早速、エミは子供たちを招いて紹介するが、息子のブルーノは切れてしまい、テレビを壊してしまう。同じアパートの隣人はアリがアラブ人というだけで偏見の目で見てエミさえも蔑む。近所のドラッグストアでは物を売ってくれなくなる。エミは掃除婦をしているが、同僚たちからも爪弾きにされる。レストランで食事をしていた時、エミは二人で旅行に行こうという。帰ってきたらきっと変わっているからというエミに、アリはモロッコへ旅行の了解する。

 

帰ってきた二人に、いつのまにか隣人は用事を頼んでくるし、ドラッグストアの店主も愛想良く迎え、息子のブルーノもテレビの修理代を持ってくる。全てが思惑通りかと思われたが、アリが故郷の食べ物クスクスを食べたいというのをエミが断ったことから、アリはエミからなんとなく遠ざかるようになり、バーのオーナーの部屋に行って彼女を抱いてしまう。家に帰らないアリを迎えに職場までエミはいくが、冷たい視線を浴びる。

 

アリはバーで友人たちとカードをしてどんどん負けていく。家に金をとってきて欲しいと友人に頼み、友人は金をあづかって来るが、直後、エミがバーに現れコーラを頼む。そして、初めてきた時にかかっていた曲をかけて欲しいという。その曲がかかるとアリは立ち上がり、エミを再びダンスに誘う。そして一時の気の迷いでオーナーと寝たことを謝る。ところが突然アリが苦しみ始め倒れたので、救急車で病院に運ぶ。病院で、医師から胃潰瘍が裂けたのだと伝えられる。半年後また再発するかもしれないと言われたエミは、そうならないようにすると、優しくアリのベッドのそばに縋って映画は終わっていく。

 

赤や黄色、ドア枠を使った画面の構図が素晴らしく美しく、しかも背景に流れる音楽も洒落ていて素敵。物語は前半、差別テーマに見えるのに、いつの間にか男女の素敵なドラマに変化していく流れが不思議なほどに美しい。ファスビンダーの才能を目の当たりにする作品でした。

 

「658km、陽子の旅」

決してレベルの低い映画ではないのですが、ちょっとありきたりな展開を含めたロードムービーという感じが否めないのが残念です。ただ、菊地凛子の存在感が物語を語っていくという作りはなかなかの出来栄えだった気がします。。監督は熊切和嘉。

 

人と接することができず引きこもっている主人公陽子の姿から映画は幕を開ける。宅急便くらいしか人と接しない中、ある時、兄の茂が父が亡くなったので青森まで行くことになったと迎えにくる。仕方なく荷物をまとめて茂の車に乗り込むが、途中のドライブインで、陽子が駐車場を離れている時、一緒に乗っていた茂の息子が怪我をして、慌てて茂は子供を乗せて病院へ行ってしまう。事情を知らず駐車場に戻った陽子は、置いてきぼりになったと勘違いしてしまう。手持ちのお金も2000円余りしかなく、ヒッチハイクで青森へ向かうことにする。

 

なんとか、一台の女性の車に乗せてもらうが、その女性は自分のことだけ言うだけ言って、トイレだけのドライブインに陽子を下ろしてしまう。そこで同じようにヒッチハイクしている少女と出会う。やっと捕まえた車は一人分しかスペースがなく、少女が先に乗り込む。陽子はその後にきた車に乗るが、運転しているジャーナリストまがいの男は陽子の体を要求、陽子も仕方なく応じるが、急な仕事で、青森まで行けず、途中で降ろされる。

 

陽子はその後気のいい老夫婦に乗せてもらい、その関係で大震災のボランティアできたがそのまま住み着いた女性の軽トラに乗り、最後にようやく青森までたどり着くが、人と接することが苦手だった陽子はいつのまにか誰かの助けを得るということに前向きになっていることに気がつく。しかし、すでに出棺の十二時は過ぎていた。家の前まで陽子はきたが、茂が出棺を待ってもらっていて、陽子はなんとか父の姿を最後に見れることになって映画がは終わる。

 

大震災のエピソードや、体を要求するおとこの登場、気のいい老夫婦などあまりにありきたりすぎて、今更と言う感じが否めない。それでも菊地凛子の個性的な演技が映画に厚みを持たせたのは救いである。ラストの雪景色も美しい締めくくりだし、決して悪い映画ではなかったと思う。

 

シモーヌ フランスに最も愛された政治家」

非常に見応えのあるお話なのですが、時間軸を前後させて、しかも日本人にはほとんど知識のない史実を盛り込んでくると、流石に二時間越えはしんどかった。しかも終盤、ナチス収容所のエピソードの配分が膨らんでくるあたりからは、この映画の作りの弱さを露呈してきた感じです。果たしてシモーヌと言う人物がこう言う清廉潔白な素晴らしい人なのかはあくまで歴史の片面であると言う認識で楽しむ映画だと言う感想です。監督はオリビエ・ダアン。

 

今や老齢を迎え、自伝を書いている主人公シモーヌの姿から映画は幕を開ける。幼い日、裕福な家庭に育ったシモーヌだが、ユダヤ人であるためにナチスの迫害を受ける。後年、収容所から無事帰還した彼女は、人工中絶を合法化し、刑務所の囚人の環境を改善し、アルジェリアなどフランスが関わった他国の窮状を糾弾し、欧州連合議会の議長になる。一方で、ナチス収容所時代の苦しみをトラウマに抱える。映画は、彼女の偉業を時間を前後させながら繰り返し描いていく一方で、収容所へ送られる際の苦難、死の恐怖などを描いていく。

 

ひたすらシモーヌの業績を綴っていく展開と、終盤のナチス収容所を見せることに傾倒した作りは、一つの知識として楽しむにはいいですが映画作品として鑑賞するには完全に外れている気がします。でも、これも映画を見ることから得られる利点かもしれません。