くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ザ・スパイダースの大進撃」「河内フーテン族」「ドリー・ベルを覚えているかい?」

ザ・スパイダースの大進撃」

グループサウンズ全盛期のいわゆるアイドル映画ですが、テンポよく物語が進むので、最後まで気楽に楽しめます。倉本聰が脚本に参加しているのはちょっと逸品でした。監督は中平康

 

アメリカから帰ってきたスパイダースの面々、順と正章はアメリカでタンバリンを買っていた。ところがそのタンバリンには模造ダイヤが仕込まれていて、それを取り戻そうと悪者が迫ってくる。一方、空港でももみくちゃにされた際、楽譜の入ったアタッシュケースと何やら書類の入ったアタッシュケースが入れ替わり、それを取り戻しに悪物が迫ってくる。こうして三つ巴のアクション的なストーリーに、ステージシーンが被さっての大騒動が展開。結局、ダイヤモンドも書類も詳細がわからないままに犯人は警察に捕まり、平穏に戻ってのステージシーンでエンディング。

 

全くのお気楽娯楽映画で、それ以上でも以下でもない。グループサウンズ世代でもないので、ほとんど曲も知らないのですが、肩の凝らないエンタメを楽しんだという感じでした。

 

「河内フーテン族」

中心になる話がぼやけているので傑作とはなっていないものの、河内という地方都市を中心にした温かみのある人情ドラマとしては素直に楽しめる娯楽映画でした。監督は千葉泰樹

 

河内に風吉が帰ってくるという噂が流れる。地元のヤクザ連中は風吉は伝説のヤクザになっていて、世界中を股にかけて出世したとあちこちで囁かれていた。そんな風吉は闘鶏でのちょっとしたいざこざを見事に収めてこの地に返り咲いてくる。若い頃世話になった浅吉親分のところの行き、東吾和尚のところに挨拶に行くが、幼い頃、妹のとよを捨てて村を出た風吉を東吾和尚は追い返してしまう。

 

実は風吉はマカオ富くじに当たり大金を手にして、河内で事業をするために戻ってきたのだが、また賭博場でもするのだろうと誰もが噂していた。物語は風吉の活躍に、浅吉と飲み屋の女将おふじの恋物語、さらに息子浅太郎と恋人とのロマンスを絡めながら、それぞれを風吉が見事に収め、やがて風吉の事業が開業するが、なんとスーパーだったという展開になる。風吉の子分になりたいという若者を店員にしてしまい、東吾和尚にも褒められた風吉は、東吾和尚に連れられ、夙川に預けられているとよの養親の家に連れて行かれる。しかし、とよは養親の恩は捨てられないと風吉を兄と呼ばず、風吉は納得してその家を去り、開店したスーパーでドラムを叩いて映画がは終わる。

 

たわいない人情ドラマですが、わかりやすい展開と勧善懲悪を織り交ぜたストーリーが心地よい映画で、娯楽映画としてはよくできた一本だと思います。

 

「ドリー・ベルを覚えているかい?」

近代化が進むサラエヴォの街の片隅で描かれる一人の少年の家族と成長の物語を独特のリズム感と音楽センスでリズミカルに描いていく。さりげない物語ですが、地域性を巧みに忍ばせた個性的な作品で、不思議な面白さに惹き込まれてしまいます。監督はエミール・クストリッツァ。彼のデビュー作である。

 

サラエヴォの街、地域の監督官ら役員がこの地域にダンスバンドを作って文化活動を進めようと相談している場面から映画は幕を開ける。リズミカルな音楽が拡声器から流れ、カメラがティルトダウンすると一人の青年がタバコを吸っている。背後に移動遊園地のようなものが動いていて、檻に入った猿を子供達が囲んでいて、猿にタバコを与えてみたりしている。

 

ここの住む一人の青年ディーノがいつものように家で食事をしている。兄のパンを弟が勝手に食べては取り返され、そんな中食事が終わるが、夜、酔っ払って父が帰ってくると子供達は起こされ、政治談義の如く会議が始まる。そして今日一日のそれぞれの行動の報告が行われ、共産主義を元にした父の教義が語られ、家族は辟易とする。これがディーノの家族の日課だった。そんな父に興味がないディーノは、離れ小屋に行き、ウサギのペロを相手に催眠術の特訓をしている。天井には集中力を増すために点が書かれている。

 

地域の若者達で作るバンドに誘われたディーノはバンド練習が始まる。ある時、友達と外国映画を見に行き、そこに登場したドリー・ベルというストリッパーに心を奪われる。ディーノは街のごろつきのブラツィオから一人の女を匿って欲しいと言われる。ディーノは、鳩小屋の二階に彼女を匿うが、名前を聞くとドリー・ベルだという。

 

同じ部屋で暮らすようになった二人は次第に惹かれ合うようになる。そんな時父に病気がみつかり入院することになる。ディーノとドリー・ベルはベッドで抱き合おうとするが、タイミング悪くブラツィオが帰ってくる。ディーノは追い出され、ドリー・ベルがブラツィオの仲間に体を与えてやるのを切ない思いで見つめる。

 

ドリー・ベルはブラツィオと街を出て行ってしまうが、ディーノは監督官に教えてもらい、ブラツィオは刑務所を脱走してきたこと、ミラノで女に売春をさせていることを知る。ディーノはウサギを売って金を作り、ドリー・ベルの勤めている店に行き、彼女を買ってようやくベッドで体を合わせるが、またしても運悪くブラツィオがやってくる。ディーノは部屋の隅に隠れるが、ブラツィオがドリー・ベルに金を要求するのを見て思わず飛び出して喧嘩してしまう。

 

父の容態は悪くなるばかりだったが、父はディーノに後のことは頼むと話す。まもなくして父が亡くなってしまう。父の遺言通り、鳩小屋も売り、この街を出て行くことにしたディーノたちが家財道具をトラックに乗せ走り去る。彼方には集合住宅のような巨大な建物が建設されて行く様子が映されて映画は終わる。

 

ユーゴスラビアという国柄が分かればもっと楽しめるのかもしれないが、特殊な政治的背景の中で描かれる青春映画という空気感は感じ取ることができました。いい映画でした。