くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話」「ブリックレイヤー」「罪と罰」(アキ・カウリスマキ版)

「コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話」

相当に良かった。実話を元にしているとはいえ、エピソードの組み立てが抜群に良い脚本が素晴らしく、クローズアップや背後からのカメラワーク、延々と長回しをするリズム感と軽快な音楽の挿入が映画全体をテンポよく牽引していくタッチも見事。下手をすると重い話になりがちなテーマをメッセージをしっかり伝えながらも、女性のドラマとして完成させたのは秀逸でした。良い映画を見ました。監督はフィリス・ナジー

 

高級ホテルの階段を一人の女性が降りて来るのをカメラが背後から追って行って映画は幕を開ける。共同経営者の会合のような実業家らの華やかなパーティーホールを横目に玄関まで出ると、外ではベトナム戦争反対の若者たちを同じ年代の警官達がホテルを警護している。時は1968年8月、優秀な刑事弁護士の夫ウィルを持つ妻のジョイはこの日も夫のパーティに同行した後帰宅する。しかし、最近彼女は時に気を失いかける症状を感じていた。長女シャーロットは15歳で、最近初潮を迎えたと聞いてジョイは喜ぶが、ジョイのお腹には二人目の赤ん坊がいた。

 

ある日、ジョイはシャーロットとはしゃいでいて突然倒れて病院に担ぎ込まれる。医師の診断は、心臓に問題があり、このまま妊娠を続けることは難しいというものだった。しかしこの時代人口中絶は違法とされ、どの病院も許可していなかった。母体を守るよりも違法性を優先する男性の医師達の行動に、ジョイは辟易としてしまう。夫のウィルも、なんとか無事出産することしか考えない。病院の医師のアドバイスで、二人の精神科医にジョイが精神不安定で自殺しかねないと診断されたら中絶できるかもしれないと言われ、精神科医を受診するが、その診断にならず、メモで違法医師を紹介される。さらに帰り際、受付の女性に階段から落ちたらいいと言われるが、ジョイは結局できなかった。

 

メモの住所でスラム街のような建物を訪ねたジョイだが、やはり思わず逃げ出してしまう。そしてバス停で「コール・ジェーン」の張り紙を見つけ、恐る恐る電話をする。ジェーンからの迎えで、ジョイは黒人のグウェンの車に乗せてもらい目隠しをされてとある建物にやってくる。そこでバージニアという、この組織の主催者に迎えられたジョイは、ディーンという若い医師に施術され無事中絶する。自宅に帰ったジョイは巧みに嘘をついて流産した旨をウィルに話す。

 

後日、ジョイはバージニアから突然、運転手が急病になったから一人の患者を車で送って欲しいと頼まれる。それをきっかけにジョイはたびたびジェーンに患者を送迎し、仕事を手伝うようになる。そして手術の際のディーンの手伝いも手際よくこなすようになる。ジェーンの経営が厳しくなり、患者数を増やしたり、無料の手術を受けたりするようになって、施設は多忙を極めていく。

 

ある日、ジョイは、何かにつけ報酬にこだわるディーンを不審に思い彼の後をつける。そこでジョイは、ディーンはプールのある大邸宅に住んでいるのを突き止める。ジョイはディーンに詰め寄り、ディーンが医師免許を持たないことを告白させ、自分に施術の方法を教えるように迫る。そしてディーンはジョイに中絶手術のやり方を手ほどきし始める。やがてその真実をバージニアも知ることになり、ジョイが一人で手術ができるようになって来るとディーンを解雇する。

 

日々の行動に疑問を持ち始めたシャーロットは、ジョイの日記からジョイの行き場所を突き止め乗り込んできた。さらに、仕事を終えてジョイが帰宅したら自宅前にパトカーが停まっているのを発見する。てっきり逮捕されると思ったジョイだが、実は警官の知人の一人が中絶の必要があり、ジェーンに連絡をするから頼むというものだった。

 

全てがウィルにバレてしまったジョイはバージニアに、今後活動から離れる旨を知らせる。ところがしばらくして、シャーロットに連れられてバージニアがやってくる。沢山の患者が苦しんでいるからと、ジェーンに届いた留守電のカセットテープを渡す。ジョイはシャーロットとそのテープを聞き、再びジェーンの事務所へ行く。そして、みんなにも手術の方法を伝授するので、みんなが手術できるようになるまではここに残ると告げる。

 

こうしてジェーンの組織はその後強制捜査が入るまで12000人の女性を救ったことがテロップされ、ウィルの弁護と女性達の支援で保釈されたことが語られて映画は終わる。

 

社会ドラマではなく、女性達の自立のヒューマンドラマというのが根底に流れるストーリー作りが見事で、周囲の脇役も、主人公に反対しながらも応援していく描写が当時の世相を見事に反映し、爽やかなエンディングに拍手してしまう作品だった。

 

「ブリックレイヤー」

原作が悪いのか脚本が雑なのか、トップクラスのプロの諜報員なのに素人みたいなドジをふむケイトの存在や、強いのかどうかわからないカリスマ性のない主人公ヴェイルの描き方、さらに安易なカーアクションと、まるで安物のテレビアクションを見るような映画だった。監督はレニー・ハーリン

 

ギリシャテッサロニキ、元CIA諜報員で死んだと思われている一人の男ラデックがホテルの一室に入っていく。そこにはドイツ人女性ジャーナリストグレッグが待っていて、ラデックはCIA諜報員がヨーロッパで殺戮を繰り返している証拠の書類を手渡した直後グレッグを撃ち殺して映画は幕を開ける。

 

アメリフィラデルフィア、元CIA諜報員のヴェイルはレンガ職人となって今日も仕事をしていたが、CIAの上司オマリーに呼び出される。グレッグ殺人の防犯カメラを調査していたCIAの新人諜報員ケイトが、死んだはずのラデックを発見したため、ラデックの元相棒で友人のヴェイルが呼ばれたのだ。

 

ヴェイルは最初は拒否するが、仕事中何者かに銃撃される。どうやらラデックの仕業らしいと判断したヴェイルはオマリーの依頼を受けるが相棒にケイトをつけられる。二人はギリシャに着き、ヴェイルはかつての仲間のところに無理やりケイトを連れて行って、車や武器を調達、ラデックとの接触を試みるというのが本編になるのですが、このあたりから混沌としてくる。

 

ヴェイルはCIAのギリシャ支局長でおそらく元カノであろうタイと会って状況を把握し、仲間の協力でラデックと接触しかけるが、ーラデックは自分の娘と妻がCIAに殺されたと信じていて、CIAをヨーロッパでの敵に仕立てる計画を進める。そしてヴェイルの仲間はラデックの手下らに殺され、CIAの暴露資料を渡すための法外な報酬を要求、オマリーは仮想通貨による支払いを承諾してギリシャに乗り込んで来る。

 

ラデックは金の受け渡しにケイトを要求し、頼りないながらケイトが一人向かうが、途中でヴェイルと入れ替わる。しかし、罠に嵌められ間一髪のところ脱出してケイトと共にラデックを追う。そしてようやく追い詰めるのだが、ラデックはギリシャ外務大臣暗殺を最後の目標にし、それをCIAの仕業にすることでとどめを刺そうとしていた。しかしヴェイルがその企てを阻止し、自ら重傷を負って事件を解決する。

 

ヴェイルが最後の挨拶にタイの部屋に行ったが、そこで、かつて自分がラデックにプレゼントしたレコードのジャケットを発見、黒幕がタイだとわかる。しかしタイはヴェイルに銃口を向けていた。しかしすんでのところで脱出、タイがヴェイルを車で轢き殺そうと迫るのを駆けつけたケイトが救う。全てが終わり、ヴェイルは元のレンガ職人に戻り、ケイトは出世を拒否して映画は終わっていく。

 

なんともいえない雑な脚本で、ギリシャのギャング達との銃撃戦の意味も、ラデックが意地になって復讐するくだりも、仮想通貨を要求する動機も表立って見えてこない上に、カーアクションもありきたりだし、主人公のヴェイルにカリスマ性がなさすぎる。さらにケイトがまるで素人の女の子にしか見えないキャラクター設定があまりにリアリティに欠けすぎ、結局、凡作の極みで終わった。まあ気楽に見れたからよしとしましょう。

 

罪と罰

音楽に合わせて淡々と流れる物語で、殺人を描いたサスペンスなのにどこかとぼけた感満載のユニークな映画だった。監督はアキ・カウリスマキ。彼のデビュー作。

 

虫を殺すカットから、主人公ラヒカイネンが食肉工場で働いている場面から映画は幕を開ける。仕事終わりに掃除を終えた彼は帰路に着く。タクシーで帰ってきた実業家のホンカネンが自宅に入るのをじっと見ているラヒカイネンは、手紙らしいものを持ってホンカネンの家の前に立つ。出てきたホンカネンに電報だと手紙らしいものを渡し、サインをしに奥に入ったホンカネンの後についてラヒカイネンが入っていき、銃を向けてホンカネンを撃ち殺す。ホンカネンの所持品を包んで帰りかけると一人のケータリングの女エヴァが入ってくる。ラヒカイネンは、自分は人を殺したから警察に電話をしろと言って出て行ってしまう。

 

刑事が殺人現場にやってきて一通り調べ、犯人を見たというエヴァに事情聴取するがあまり参考にならない。刑事が容疑者だと目星をつけたラヒカイネンを参考人に呼び、エヴァと引き合わせても何故かエヴァは知らないと答える。エヴァは洋菓子店で働いていて店の店長ハイノネンに言い寄られているが、話を逸らしていた。その店にラヒカイネンがやってきてエヴァをデートに誘う。

 

ラヒカイネンは、ホンカネンの部屋から持ち帰った品物をロッカーに隠し、その鍵を道端の浮浪者ソルムネンにやる。ロッカーを開けに行ったソルムネンは張り込んでいた刑事に逮捕される。どうやらラヒカイネンは密告したようだ。結局、ソルムネンは殺人を自白してしまうが、それは長時間の取調べで疲労の結果だろうと刑事は考える。そして再度参考人で呼んだラヒカイネンに犯人はお前だが、いずれ罪の意識で自首して来ると断言する。

 

その頃、エヴァはラヒカイネンの部屋に行った際、ソファに隠していたピストルを持ち帰る。ハイノネンにホテルに呼び出され、結婚を迫られる。力づくでエヴァを奪おうとするハイノネンにエヴァはピストルを向ける。しかし結局撃てず、ピストルを捨てて逃げる。そのピストルを持ってハイノネンは外に出てラヒカイネンと出くわす。ハイノネンはラヒカイネンを撃とうとするが、そこへ市電が走ってきてハイノネンは轢かれる。

 

刑事はそのピストルを証拠にラヒカイネンを呼ぶがラヒカイネンは自白しなかった。ラヒカイネンは偽パスポートを手に入れ、職場の同僚と海外逃亡を考えていた。この日、車で港へ行き、パスポートを見せて船に乗りかけるが、Uターンして警察署へ行き自首しようとする。しかし直前で断念してまた警察署を出てくる。ところがそこにエヴァが待っていた。ラヒカイネンは再度警察署に入り自首し逮捕される。

 

刑務所にエヴァが面会に来る。ラヒカイネンが出てくるまで待つというエヴァにラヒカイネンは8年も待つなと言い、自分は結局虫ケラになったと言って去って行って映画は終わる。

 

一見シリアスドラマなのに、何故か淡々としたとぼけた感が全編に漂い、心地よい楽曲のテンポが映画を不思議な空気感に包んでいく。まさにカウリスマキ色満載の一本だった。