くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「のんき裁判」「パスト ライブス 再会」

「のんき裁判」

当時の映画スターが総動員で出てくる珍品的な娯楽映画で、スターがそのままの名前で出てくるので混乱はないけれど、即興劇で展開する様はまるでテレビバラエティの如くだった。監督は渡辺邦男

 

のんき裁判という裁判所があって、そこで、ハート泥棒をしたという高島忠夫小林桂樹が被告として出てくるところから幕を開ける。裁判官は藤田進で弁護士は笠置シヅ子で、検察官は田崎潤。そして次々と被告が入れ替わり、人々を笑わせすぎただの、映画の中で大量殺人をしただのコミカルな展開をし、それぞれに大スターが証人になったり、裁判官が入れ替わったりを繰り返していって、ラストはみんな勢揃いで大笑いしてエンディング。

 

まさに、並ぶスタジオの一角で、本編撮影の合間に顔を出しながら作った感満載の映画産業絶頂期の作品ですが、これだけのスターを一度に見れる贅沢感はこれはこれで相当に楽しめる映画だったと思いました。

 

「パスト ライブス 再会」

美しいカメラと淡々と進むシンプルなストーリー、素朴な作品ですが、堪らなく切なくなる物語に引き込まれていく魅力がある映画でした。監督はセリーヌ・ソン。

 

ニューヨークの一軒のバー、東洋人の男性と女性、そして西洋人の男性がカウンターに座っている。彼らはどういう関係だろうという客の声で映画は幕を開ける。そして24年前韓国、12歳のヘソンとナヨンが歩いている。ナヨンはヘソンにテストの成績を抜かされて泣いている。ヘソンとナヨンは幼馴染でお互い恋人同士のつもりをしていて、将来結婚することも考えている。そんな二人を応援するように両方の母親が二人を公園に連れていってデートさせてやる。実は近日、ナヨンの家族はカナダトロントへ移住することが決まっていた。ナヨンは作家を目指していて韓国ではノーベル文学賞は取れないなどと言っていた。

 

ナヨンは移住先でノラという英語名を名乗るようになる。そして12年が経つ。ヘソンはあれからもナヨンを探していた。たまたま映画監督をしているナヨン=ノラの父親のfacebookを見ていたノラは、そこにヘソンの書き込みを見つける。ノラはニューヨークに移っていた。早速友達申請して二人はネットを通じて再会、それぞれの12年間を話すようになる。ヘソンはいつ韓国に来るのかとノラに尋ねノラはいつニューヨークに来るのかとヘソンに尋ねる。ヘソンは今もノラが好きだった。しかし、お互いにお互いのところへ行くのは一年以上先だと告げる。

 

作家を目指すノラは作家招聘のサークルに参加することになり一人生活に入るが、そこでアーサーと知り合う。作家を本気で目指すノラはヘソンに、ネットでの会話を辞めようと告げる。そしてさらに12年の月日が流れる。ヘソンにも恋人はできるが、すぐに疎遠になってしまう。ヘソンは仕事の休暇でニューヨークのノラに会いに行くことにする。ノラはアーサーと7年前に結婚していた。ノラはアーサーにヘソンと会う旨を話す。

 

ニューヨークにやってきたヘソンはノラとひと時を過ごす。そして帰国する前の夜、アーサーに会うことになる。ヘソンはノラたちの家に行き、アーサーと一緒に食事に出てその後バーに立ち寄る。冒頭の場面である。ノラはヘソンに、前世の縁=イニョンについて話し、二人は前世でも結ばれない運命だったこと、こうしてアーサーと出会うことの奇跡の出会いを韓国語で話す。その姿をどこか寂しげに聞くアーサーだった。

 

バーを出て野良の自宅に戻った三人は、ヘソンがタクシーに乗る場所までノラは送っていくと言い、アーサーは見送る。タクシーが来るまでの2分間、ヘソンとノラはじっと見つめ合う。それは近いようで遠い距離だった。二人は抱きしめ合い。そこへタクシーが来てヘソンは乗って去っていく。一人アパートへ戻るノラ、自宅前で待つアーサーに抱きしめられノラは思わず泣いてしまう。こうして映画は終わる。

 

24年間のプラトニックな切ないラブストーリーを縁という東洋的なテーマを盛り込んで描く美しい物語は、決して仰々しい展開も派手な映像も見られないけれど心に染み渡る感動を呼び起こしてくれます。アーサーが韓国語を話せず、ヘソンも英語は苦手で、さらにノラの寝言が韓国語だけだとアーサーが寂しげに言う場面など、さりげないセリフや展開の中に心の機微が盛り込まれた脚本が上手い。残念ながらアカデミー賞作品賞を取るにはしんどいかもしれないけれど良質の映画だったと思います。