くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「人情紙風船」「SHINOBI」

「人情紙風船」、先週に引き続いて山中貞雄監督の現存する三作品の一本であり、これが遺作となった名作である。
物語は長屋を舞台に描かれる様々な人間模様なのであるが、その視点の移し替えのうまいこと。

冒頭シーン、長屋で首つり自殺が起こり長屋の住人達がその通夜を良いことにどんちゃん騒ぎをする。
その中で長屋の十人の一人一人の個性やその生活背景を見事に紹介して見せて物語は本題へ入っていく。

最初は髪結いの新三を中心に物語が展開するかと思うと少しずつ浪人の海野又十郎の姿をかいま見せていき、この作品の中心となる事件である白子屋の娘の縁談の話を徐々にクローズアップしていって、すべての登場人物がこの娘の事件に集約されていくのである。

所々に挿入されるインサートカット、(屋根から空を見上げるショットや紙風船が転がるショット、のれんにオーバーラップするショットなど)があるときは効果的に、ある時はややしつこいほどに物語の転換を暗示して、どこか切なくむなしいながらも日々を一生懸命生活する人々の姿を映しだしていくのである。

個人的には山中貞雄作品の今回の三作品の中では先週見た「河内山宗俊」が一番好きである。その前の「丹下左膳餘話百万両の壺」も好きな作品である。というのはこの二作品には所々に独特の繰り返しによるユーモアが点在するのである。しかし、今日の「人情紙風船」にはそれがごく少ない。というよりほとんど見られない。一方で先ほども書いた絶妙なカットが見事に挿入され映像芸術的なレベルアップがあるのである。名作とはこういう物がといわざるを得ない傑作と言うべきか。

「人情紙風船」を見ていると黒澤明監督が手がけた「どん底」などをおもいだす。いや、「赤ひげ」やその他の人情時代劇に登場する長屋のシーンを思い出さざるを得ない。やはり黒澤明がその目標としたといわれる監督の作品だけはあるのであろうか。

わずか三本とは本当に寂しい。時代劇であり人情話であるにもかかわらずいつの間にかそれぞれの登場人物の行く末が見たくて見たくて引き込まれてしまう山中貞雄監督の演出手腕の見事さは絶品であった。
人情紙風船
1937年/86分/モノクロ/スタンダードサイズ/35ミリ/PCL=前進座作品/原作:河竹黙阿弥「髪結新三」
監督:山中貞雄/脚本:三村伸太郎/撮影:三村明/美術:久保一雄/美術考証:岩田専太郎/音楽:太田忠
出演:中村翫右衛門河原崎長十郎、山岸しづ江、霧立のぼる、中村鶴蔵市川莚司、市川笑太郎、瀬川菊之丞

髪結新三は白子屋の娘を誘拐する。新三と同じ長屋の住人、海野又十郎は、仕官する日を夢見て妻と二人貧しい生活に耐えていた。しかし、海野はこの誘拐の片棒を担いだことから…。紙風船のようにわずかな風に翻弄される市井の人々を描いた名作。山中は『森の石松』を最後に生まれ育った京都を去り、東京のPCLに入社。その第1回作品であり、最後の作品になってしまう。脚本の三村は海野を楽天家に設定していたが、山中は海野の性格を全く反対にし、この作品の厭世観を体現する人物に描いた。それはまるで自らの運命を知っていたようであり、実際、映画が完成した日に撮影所に届いたのが赤紙だった。そしてわずか翌年、中国戦線で戦病死。この厭世観に満ちた本作が遺作となり、「これが遺作とは、ちと寂しい」と言った山中の無念さが胸に迫る。



SHINOBI」はとにかく批評家からは酷評されています。とはいえCM段階からそこそこ期待もしていたし、何せ忍法帳の大御所山田風太郎原作の作品でもあり、本日見に行きました

意外に良かった。というのが第一印象。批評家や映画雑誌で酷評するほどひどい作品ではなかった。それなりにアクションシーンも楽しめるし、ドラマ性もそれなりにさりげなく挿入されていて無難に処理されているし、私は良かったです。ラストはそれなりに感動しましたよ。

忍者のキャラクターが「あずみ」にうり二つというのが少々気になりますが、それぞれの独特の忍法の戦闘シーンや五人の忍たちの個性あふれる忍術合戦なんかもきれいに処理されていてわくわくしてしまいました。エンターテインメントとしては成功作品ですよ。

朧(仲間由紀恵)と弦の介(オダギリジョー)の辛みもさりげなく(本当はもっと全面に出したかったのでしょうか?)、一騎打ちのシーンも変にこてこてところうとせずにラストシーンに集約させるべくあっさりと終わらせるあたり見事でした。

椎名桔平薬師寺天膳)の不死身の忍者もなかなかの見物だったし(ただし、これは「あずみ」のオダギリジョーが演じた忍者と同じ装い)、夜叉丸も小四郎もなかなかの一騎打ちのシーンを見せてくれる(どこか「LOVERS」を思い出しましたが)朧が小四郎に投げる下弦の瞳の忍法はとにかく見事。瞳が美しい仲間由紀恵ならではのシーンに仕上がっています。

山田風太郎の原作が見事であるのか下山天の演出が良かったのか、なかなかのエンタテインメント大作でしたが、難をいうともっと忍者同士のバトルの徹底的に集中しても良かったかも知れませんね。
それと、オダギリジョー仲間由紀恵はスクリーン向きではないかも知れません。特にオダギリジョーはだめです。あんなおがるだけの演技は遠慮願いたい物ですね。

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