くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「夕やけ雲」

夕やけ雲

東京の下町を舞台にした人情ドラマであるが、なかなかの秀作だった気がします。

主人公の青年洋一が魚屋を父から継いでバリバリ仕事をしているシーンから始まり、彼がかつての自分の少年時代を回想して物語は本編に入っていく。

美貌の姉豊子の奔放で打算的な生き方、頑固だがきまじめな父源吉、その父を支える母お新、幼い妹や弟、友人との毎日が淡々と描かれていくが、カメラがゆっくりと横に流れたりズームインしていくとまるで主人公の心の中に入り込んでいく世運不思議な感覚にとらわれる。

姉のキャラクターは当時、次第に変わりつつあった若者の意識をステロタイプ化したようであるし、主人公の友人原田の父が北海道へ転勤していく姿なども世相を見事に反映している。木下恵介監督作品を見ていて時代を映し出している典型的なショットがちりばめられている。

双眼鏡で見るあこがれの女性への淡い恋心やその女性が胸の病を持っているにも関わらず嫁いでいく場面に出くわしたり、甘酸っぱい抒情的なシーンも描かれる。

妹が大阪につれていかれる後を追って主人公が駆けつけるシーンを真横にカメラが移動する。木下恵介監督作品に珍しいワーキングだが、そのあと主人公が「必ず迎えにいくから」と叫ぶシーンは胸が熱くなった。

そして、物語は現代へ戻り、様々なときの流れの中で去っていった人たちを考えながらエンディングになる。
懐かしい青春時代を木下恵介ならではのタッチで描いていく美しい青春ドラマでした。良かったです。