くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「指導物語」「河内山宗俊」「巨人伝」

kurawan2015-04-27

「指導物語」
原節子特集の最初の一本目である。監督は熊谷久虎という人で、原節子の義兄に当たる人らしい。

完全な国策映画で、戦意高揚のために作られた作品。しかし、当時の日本の世相を間近に見る感じが、本当にリアリティにあふれ、今見ることの価値は十分になる一本でした。

映画は、軍用列車の運転士を育てる老教官とその教え子の物語で、師弟愛を中心に展開し、ラスト、無事戦地に旅立つ教え子を見送る教官たちのシーンでエンディング。

軍部が完全にバックアップしただけのことはあり、しかも当時の日本映画の存在をはっきり見ることができるのは、ラストの見送りシーンのスペクタクルといえるほどの群衆シーン。画面いっぱいに広がる日の丸と、見送りの人々は圧巻。

さらに、物語の中に再三登場する機関車の疾走シーンは、鉄道ファンにはたまらないだろうと思います。

ストーリーの組立とか、演出の荒さは、映画としてはクオリティは普通のレベルかもしれませんが、1941年という製作年、さらにラストで映るソ連参戦の記事のショットなど、政府のこの映画を作る意図が露骨なほどにわかるあたり、歴史的な価値も十分の一本でした。


河内山宗俊
山中貞雄監督の傑作の一本の再見です。
やはり、このリズムのうまさは絶品である。軽いタッチの笑いで引き込む導入部から、テンポよく進むストーリー展開の妙味、繰り返しの笑いで見せる絶妙のタイミングのうまさ、本編を彩る枝葉の配置のうまさはまさに絶品の貫禄である。

物語は、男のプラトニックな恋心。冒頭の浪人の何気ないはにかむような少女への想いから、やがて河内山宗俊を巻き込んでの不器用なクライマックスまで、せりふが聞き取れないほどにフィルムが痛んでいるのに、ちゃんとそのユーモアが伝わってくる様は、映像で映画を語る職人芸の極みですね。

これが娯楽映画の神髄、何度見てもうなってしまいます。


「巨人伝」
ヴィクトル・ユゴーの「レ・ミゼラブル」の翻案である。監督は伊丹万作、彼の最後の監督作品である。

荒っぽい脚本で、とりあえず、原作そのまま日本を舞台にこじつけたままで、それ以上の工夫はなんにもない。それに、演出も、普通の娯楽映画のレベルで、際だつものはない。

でも、当時、この作品を見た人は、そのスペクタクルを楽しんだろうと思う。とにかく、今見れば苦笑するような場面だらけだが、このレトロ感が妙に楽しい一本なのです。

で、今回の特集の原節子は、ほぼ映画の後半でやっとでてくる。しかも、まだまだわき役にはかわりないので、そう再々スクリーンに映し出されているわけではない。その意味で、今回の特集では珍品でした。