大ファンの樋口真嗣監督、そして「雪に願うこと」の名脚本を書いた加藤正人が脚本に参加している「日本沈没」、期待せずにはいられないのであるが、やはり33年前の森谷司郎監督の大作「日本沈没」を知るものにとっては複雑な思いで見に行った。
もちろん、前作はそもそも小松左京原作の「日本沈没」が大ベストセラーになってからの映画化であったから、まず原作ありきであった。それに時代は高度経済成長期の頂点であり、すべてが今とは違うのである。したがって、前作は原作に忠実に作られていた。しかし、今回のリメイク版は前作の展開をあえて避けたようなムリがあちこちに出てしまうことになっている。
まず、草薙剛と柴咲コウの登場人物を作り出すことからムリなストーリー展開になったのではないでしょうかね。確かに冒頭部の救出シーンはさすがに樋口監督の手腕が一気に吹き出す導入部でした。しかし、その後がちょっとつらい。前作を上回る特撮シーンと、前作の真似にならないようにとあえて避けた展開のムリが、物語の一本の筋を絡めてしまったようになって、結果としては物足りない。
特撮シーンは遙かに高度になっているのに、前作ほどわくわくするところがない。科学的な理論付けはそれなりにしっかりしているのに、前作ほどのリアリティがない。それにもかかわらず東宝映画お得意の荒唐無稽なラストシーンを用意している。結局、前作を意識しすぎているのである。もっと樋口真嗣監督としての自由な演出とストーリー展開をすれば良かったのだ。極端に言えばオリジナルの物語を徹底的に忠実に作っても良かったのだ。
もちろん、前作の脚本は名匠橋本忍であり、撮影は木村大作とそうそうたるスタッフである。さらにキャストも演技力と貫禄のある俳優陣をそろえたのだから比べようもないと言えばないのであるが、今回の作品のスタッフも今の映画界で活躍中の実力派なのだ。キャストはさすがに柴咲コウも草薙剛もスクリーン向きではなくテレビ向きなのでちょっと寂しいのであるが、大地真央の颯爽とした閣僚の姿がめちゃくちゃかっこいいし、あれはあれで良いのではないでしょうか。
いずれにせよ、時代が違うこと、監督が冒頭シーンとラストシーンにしかその実力を発揮していないこと、前作を意識しすぎたこと、すべてが気負いすぎたための残念な結果の作品となってしまった。
でも、劇場を出るとき一人のおばさんが「よかったね・・」と言っていた。何故かうれしくなってしまいました。感動される方は十分に感動できる大作だったのです。