くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「沈まぬ太陽」

沈まぬ太陽

非常に重厚な中に人間の本質とは何か?生きるとは何か?を見事に問い詰め表現した素晴らしい大作でした。
しかも、久しぶりに中盤で10分間のインターミッションをはさむという上映の仕方に非常に好感を持ちました。昨今の商業主義の大作なら前後編や、第一部第二部にするところでしょうが、この物語を間を空けてしまうとそのテーマがまったく伝わらない。そのあたりを十分理解しての公開方法だったのでしょう。しかし、3時間30分近くの大作を一気に見せるのは見事。ひとえに脚本の素晴らしさによるものでしょう。

原作をすでに読んでいるので、物語の本筋もあらかたわかったいましたが、山崎豊子が時間の流れに沿って、徹底的な調査と深い洞察で描いていくドラマを思い切った組みなおしで、そのテーマを損なわずに映画独特のドラマに仕上げた脚本家西岡琢也の組み立てのうまさに脱帽しました。

冒頭に、この原作の中で最大の事件となる国民航空機墜落事件(つまり日航機墜落事故)を取り上げて、一気に観客を作品に引き込むとともに、非常に短いシーンによって主人公恩地元(渡辺謙)が海外の僻地で暮らす様子を挿入します。そして、その繰り返しを細かく繰り返しながら次第に時の流れを現代に近づけていく。登場人物たちの紹介もテロップによる紹介を最小限にし、時に会話の中に、時にストーリー展開の中に巧妙に組み入れていくあたりの手腕は素晴らしい。

原作のような活字の場合、読みながらじっくりと登場人物を把握していきますが、映画のような二時間から三時間の中で登場人物を把握していくのはよほどうまく紹介していかないとわからなくなります。しかも、それなりに登場人物も多く、その関係も複雑に入り乱れていく原作の味を損ねずに映像の中に説明していくのは大変であったと思います。そのあたり、脚本のうまさももちろんですが、演出の若松節朗監督の演出もみごとです。

それぞれの人物の描き方は原作ではやや微妙な部分もあるところを大胆にカットし、かなりステロタイプ化した人物としているものの、それはやむをえない省略と捕らえても十分であったと思います。

経済成長の中で突っ走るように生きる行天四郎を演じた三浦友和が又素晴らしい。組合の委員長として理想にみなぎる若者から、やがて出世一筋にすべてを利用していくくだり、さらには自分でも止まらなくなった暴走の中でもがきながらも走るしかない自分をさげすみながらも、生きる姿。ラストシーンのなんともいえない表情も見事でした。もちろん主人公は渡辺謙演じる恩地元ですが、この好対照な人物像を原作以上に対照的に描いたことがこの作品の成功の一因かもしれません。

原作にもあった「飼われているライオンは本来の狩をやめたために体につやもなくなっている」という恩地のせりふ、さんざんに会社のために尽くしながらも再びアフリカにとび、人間の本来の生き方を見せてくれる大自然の中で沈む太陽に向かっていくエンディング。重厚なドラマの中に見せる人間の本来の姿、生き物としての本来の姿はこうだと叫ばんかのような山崎豊子の声が響いてくるようでした。見事な作品でした。大満足です