「青春の門」筑豊編
ロードショー以来で見直したが、これはなかなかの名編だった。いや、名作という言葉がぴったりの文芸大作である。なんといっても、それぞれの俳優たちがしっかりと演技しているし、その演技をきっちりと受け止めて隙なくストーリーを紡いでいく浦山桐郎監督の手腕が光る。
原作があるので、大筋は変えていないのだが、ストーリー展開の構成の配分も絶妙に無駄がない。早坂暁と浦山桐郎の脚本の素晴らしさが功を奏しているのだろう。
主人公信介の少年時代から始まる、やがて中学高校、そして東京の大学に進むためにふるさと筑豊をバイクで出ていくシーンでエンディング。スタンダード画面ながら筑豊の景色が大きく広がる構図と、セットを使い、窓の外に景色をスクリーンプロセスで映し出す手法など浦山桐郎監督得意の映像演出も光る。
信介が悩む心象風景を、汽車に山積みの髑髏で見せるクライマックスから、母と龍五郎との別れを決意する彼の決断場面は圧巻。駆け出しの大竹しのぶも見事な存在感を出し、吉永小百合も光る。やはり浦山桐郎監督は俳優、特に女優を使うのが実にうまいなと思う。
三時間を超える長編作品だが、まったく飽きないのは頭が下がります。さすが名作の貫禄十分な一本でした。
「青春の門 自立編」
筑豊編に続いての自立編、ロードショー以来の再見です。スタッフ、キャストもそのまま引き継いで、東京に出て大学生になった主人公信介の物語が続く。
前作同様、圧倒的な俳優演出で、ぐいぐいと語り尽くしていくストーリーテリングが見事な映画で、浦山桐郎の演出力の迫力が伝わる一本である。
前作ほどの映像演出へのこだわりはないが、うらぶれた新宿二丁目の雰囲気、大学内の殺伐とした当時の世相が見事に映像になってスクリーンを覆う様は素晴らしい。
娼婦カオルとの出会い、ボクシングへのこだわり、織江との別れから、演劇に手を染めて北海道へ旅立つシーンでエンディング。
個人的には筑豊編の方が出来がいいように思うが、この自立編の方が評価は高い。大竹しのぶをはじめ俳優陣がしっかりしているのも成功の一つだと思いますが、その演技力を最大限に引き出した浦山桐郎の演出力によるところも大きいでしょう。
本来、さらに続編が通られるはずだったでしょうが、当時の五木寛之ブームが下火になり、それにつれて、映画化も続かなかったのかもしれません。
2本とも3時間前後になる長尺作品ながら、まったく間延びしない完成度には拍手したい一本でした。
「暗室」
浦山桐郎監督が初めて臨んだロマン・ポルノ。吉行淳之介の原作を元に、一人の流行作家の女性遍歴を、濡れ場シーンを繰り返して描いていきます。
ろうそくの炎だけで浮かび上がる女性の裸体場面が非常に妖艶で美しく、日活ロマン・ポルノとはいえ、上品な風格を感じさせるところがある。
仕上がりは、文芸作品のごとくで、確かにSEXシーンはふんだんに出てくるが、落ち着いた作品に仕上がっている。ただ、そのためか、後半やや間延びするし、相手役の女性が見分けづらいところもないわけではない。
2時間のドラマにするには無理のあるストーリー構成であった気がします。‘しかし、濡れ場だけを見せる作品で終わらせず、主人公の心の動き、女たちの変わりゆく姿を描いていく展開は、やはり浦山桐郎の色でしょうね。