くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「怪談」

怪談

「リング」などジャパンホラーの鬼才中田秀夫監督が、古典の世界に臨んだ「怪談」をみる。
黒木瞳があまり好きではないために、期待半分、不安半分の作品。
先に知人が見た感想では思わず声を出すほどの怖さと言うことでした。

原案は三遊亭円朝の「真景累ヶ淵」という古典講談を元にしています。
冒頭、講談の場面から映画は始まり、「累ヶ淵」のいわれ、そしてその怨念の世界の発端が朗々と語られていきます。

その講談の背景にモノクロームで舞台劇のように展開していく物語の発端。

場面が変わると、時は25年後、ここからがこの「怪談」の本編である。

かつての因縁から、自然と惹かれあうことになる小唄の師匠豊志賀(黒木瞳)と煙草売りの新吉(尾上菊五郎)。
その出会いの場面。雪が津々と降り、背後になにやら意味ありげな太鼓の効果音が鳴り響く。

こののち、二人の出会いに、効果的に雪のシーンが挿入される。25年前の事件が雪の夜であったのを象徴するかのように、そして、それがこの怨念の仕業であるかのように、登場する演出は見事である。

やがて二人は同居するようになるところから、次々と25年前の怨念が二人に降りかかり始める。そもそも、25年前に斬り殺された男の娘と斬り殺した侍の息子の出会いなのだから、古典怪談の世界としては当然の成り行き。

そして、導入部から展開部へはいるとやがて、怨念を持ったまま豊志賀が死に、さらにその後、新吉と夫婦になった女はすべて呪い殺すという一言が残る。

続く犠牲者は井上真央演じる女との情事、そして、さらなる悲劇の後に、麻生久美子へと続く下りは、全くもって、懐かしい怪談の世界。

作品全体のできばえは、見事に久しぶりに芸術的な時代劇を見たという感じである。
四季の効果的な利用、日本の風景や江戸時代の風情を取り込んだ演出。古典的な展開に忠実な演出。そして、所々に見せる様式美の世界。全くもって、終わってほしくないと思えるほどの正当な映像世界であった。

しかも、中田秀夫独特のショッキングシーンも所々にさりげなく登場する。
かごの中で突然伸びる手、天井から逆さにつり上げてくる井上真央の亡霊、などなど。しかし、よく考えると、こんなシーンはかつての怪談映画によく見られたような気がしないこともないのだが。

ゲゲゲの鬼太郎」で幻滅した井上真央の演技であるが、なかなかどうして、この映画ではよくやっている。本当に幼い純真な娘役が似合っているのである。これは彼女、時代劇向きの女優さんだったのかもしれない。

いずれにせよ、なかなかの秀作に仕上がった怪談映画で、近頃はやりのジャパンホラーとは全然違う芸術作品だった