くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「蟹工船」

蟹工船

なぜ今この映画がリバイバル?という思いなのですが、2008年からの世界不景気の中で、不当労働に対する注目が注がれて、なぜか流行語対象、そして話題になった小林多喜二原作ということで、再映画化も企画される中のリバイバルということでした。

監督は山村聡、ということで映画として特に傑作という評価はないものの名匠宮島義勇のカメラが毎日映画コンクールの撮影賞を受賞したことで映画史に残っている作品である。

当時の世相がまじまじと伝わってくる圧倒的なリアル感はやはりあの時代(1953年製作)でないと再現できないかもしれない。
舞台は戦時中ではあるものの、やはりまだまだ戦争を知り、経験した人々が演出し、演じた迫力は、さすがに何物にも変えがたく、また、まだまだ復興過渡期という日本の風景がそのまま生かされ、さらにリアリティを生んでくる。

人が画面いっぱい、狭い蟹工船の中がむせるような熱気で伝わってきます。
黒澤明監督の「天国と地獄」の麻薬巣窟のシーンを思わせるようなむんむんした息苦しさが、迫害される労働者たちの姿に反映されて、作品のテーマを物語ってきます。

時折遠くに浮かぶ蟹工船を遠景で写し、カムチャッカ沖で、取り残されたように浮かぶ姿を挿入しながら、本土から遠くはなれ、逃げ場のない中で、不当労働に耐えながら、ただ、漁獲高をあげるためには手段を選ばない労働環境を描いていくこの作品の位置づけは、非常に重要なものがあると思います。

原作を読んでいないので、どの程度原作に忠実なのかは判りませんが、ラストシーンのむなしさ、そして、やり場のない感覚は、見終わって、どうしようもない気持ちになってしまいます。それがこの物語のテーマだといえばテーマなのかもしれませんね