くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ゼロの焦点」

ゼロの焦点

46年ぶりのリメイク作品である。
かつて橋本忍山田洋次脚本、野村芳太郎による映画化されたのは1961年。まさに原作の時代背景がまだ残っていた時代に作られた作品であった。したがって、観客もそれなりに物語の根底の部分は予備知識としてあったのである。
しかし、今回はまるで違う。すでに第二次大戦は遠い過去になり、この原作の根底にある戦後まもなく存在したパンパンと呼ばれる米軍相手の娼婦たちの物語を知る人はほとんどいない。いや知っていてもかつて映画化された頃ほど身近に感じている人はいないと思います。

そんな、非常に不利な中で、この原作の味を再現し、時代を映し出しさらにミステリーとしても一級品にするべく取り組んだ今回のスタッフは大変だったと思います。
そんな苦労が、この作品には見事に開花しているというのが私の第一印象です。

今の映画は音質が非常に素晴らしい。臨場感はかつて映画化された頃と比べ物にならない。その利点を最大限に利用し、犬童一心監督は、主要な人物のせりふの背景に細やかに時代を映す音や声をさりげなく挿入していきます。それは最後の最後まで手を抜くことなくこなされたために、いつの間にか私はすっかりこの物語の中に引き込まれてしまいました。そして、ラストでは物語のテーマに涙してしまいました。非常に丁寧に作りこまれた秀作であったと思います。

私は、原作も読んでいますが、それでもこの映画はまったく飽きさせられることなく最後まで画面に入り込んでしまいました。

前述した物語の舞台をしっかり描くことで、主人公がなぜ殺人を犯すのか、なぜそうしないといけないほど追い詰められていくのか、そしてその謎を知ろうとする禎子(広末涼子)のひたむきさはなぜなのかがひしひしと伝わってきます。
カメラアングルにもこだわった犬童一心監督は、時にたたみの位置から見上げるように取るかと思えば、ヒッチコックの「サイコ」を思わせるように真上からキャッチしたりする。それでいて美しい金沢、北陸の雪の場面を盛り込み、一方で荒々しい日本海の場面を織り込んで静かな中に力強いストーリーを刻んでいきます。

ただ、原作から受けていた登場人物たちの性格描写は若干わかりやすく脚色されているし、俳優さんも監督のイメージから描かれた人が採用されているので、違和感がないともいえませんが、それは犬童一心監督の作品であり、原作とは別のものなのですから、当然の結果でしょう。
とにかく、松本清張生誕100年記念作品としての意気込みは十分伝わってきた作品でした。