くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「炎上」「華岡青洲の妻」「アサルトガールズ」

炎上

「炎上」
市川崑監督作品、始めてみたのが学生時代だったように思うから、すでに20年以上たっている。
当時は市川監督は横溝作品を手がけていてその関係であの独特の映像美の世界が好きになったのです。当時の作品は、かなりわかりやすい映像表現だったのでモノクロームのこの作品の芸術性は理解しきれていなかったように思ったので再度見に行きました。

やはり、すばらしい。背景を変更することで過去と現代を場面転換したり、横に長い画面に最適の調度品やゆがんだ金網などでアクセントをつけるあたり、まさに市川崑芸術である。

徐々に気持ちがすさんでいく主人公の様子、彼に影響を与える足の悪い学生(仲代達也)の抜群の存在感、自ら住職であることに疑問を持ち始める中村雁治郎の名演、それぞれのよさを最大限にストーリーに生かした市川監督の演出のすばらしさ、それに輪をかけるように宮川一夫のカメラがなんとも美しい。

ゆがんでいく心の終着点としてたどり着いた主人公が驟閣寺(金閣)に火をつけるなんとも不思議な光の演出、そして山の肌のかなたに舞い上がる金粉の妖艶な美しさ。美が偽善という名のものとに崩れていく悲劇を主人公を通じて描ききったまさに傑作ですね。
市川崑監督の美学を久しぶりに堪能しました


続いてみたのが増村保造監督作品「華岡青洲の妻」である
さすがに女のドラマを描かせると増村保造監督の右に出る人はいませんね。「華岡青洲の妻」というと、自らの体を夫に提供して医学の進歩に貢献したという、いわば妻の鏡のような神格化された人物を想像し、そんな伝説が一人歩きしているように思いますが、なんとこの映画は違います。

息子の嫁と姑の確執の中に生まれたたわいのない競争心から自ら率先して夫の人体実験に望んだ形のストーリー展開になっています。しかも姑を演じる高峰秀子、対する主人公を演じる若尾文子と超一流の芸達者が火花を散らすから、圧倒的な迫力で物語が進んでいきます。

もちろん、そんな二人の演技力、さらには市川雷蔵演じる華岡青洲の演技を引き出した増村保造監督の演出手腕、新藤兼人監督の脚本のうまさがなせる業なのだとは思いますが、画面の構図がどうの、ストーリー展開の構成がどうのなどということはそっちのけで物語の中にのめりこんでしまいました。
嫁と姑の確執だけでなく、娘と母、さらには患者として出演する女たちの心根などが見事な人間ドラマとなって物語を牽引していきます。

ここまで見せる増村監督の演出力量、さすがに頭が下がりました。見事な充実感、見事な作品でした。


さて、三本目は「アサルトガールズ
最近注目している女優さん黒木メイサ主演ということと押井守監督作品ということもあて、ちょっと期待の作品でした。
が、参りました。導入部から延々とつづくナレーションが字幕でつづき、哲学的な文章が何度となくつづきます。しかも背景はこれといって変哲のない場面。そして登場人物たちの紹介も妙にしつこい。

それで、ストーリーがどうなるのかと見ていたら結局ゲームのワンシーンを見るような場面が数カット出ていきなり終わる。完全に観客を馬鹿にした作品である。
もちろん商業主義である必要はないけれども、作品として完成させたものを入場料を取って劇場公開すべきだと思う。これでは劇場に足を運んだことが完全に無駄である。

黒木メイサの魅力も菊池凛子のせっかくの演技力も今ひとつ生かされていない。前に作った実写映画「アヴァロン」もかなり退屈なできばえでしたが、「スカイクロラ」はなかなかのものでしたので、ちょっと期待していました。
というのに、70分ほどの中篇にもかかわらず、かなり退屈かつあっけない、しかもやたら長いエンディングに正直、情けなくなりました。