くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「珍品堂主人」「台所太平記」

珍品堂主人

森繁久弥追悼番組2本をみる。
「珍品堂主人」
骨董品には並はずれた鑑識眼を持つ珍品堂主人なるあだ名を持つ主人公加納夏磨(森繁久弥)が、ふとした知り合いの久谷なる会社経営者らしき人物の別邸を割烹として借り受け、食材や食器にこだわりながら仕事に励むも、蘭々女史(淡島千景)に翻弄されるさまを描いていきます。

カメラをじっと据え、フルショットで森繁久弥を始め様々な人たちのとのからみを、長回しとまではいかないまでも舞台をみるかのような比較的長尺なシーンの連続でとらえていくあたりは、まさに俳優陣の演技力のたまものです。
無欲なときは見事な目利きで本物と偽物を見分けていたにもかかわらず、事業にのめり込み、利益を意識し始めて、鑑識眼が狂い、偽物をつかまされてしまうくだりは何ともこの物語のテーマを適格に映し出していて秀逸ですね。

じっと据えてとっていたシーンが後半終盤に、様々な従業員の諍いやらで心労が重なり始めるあたりから、微妙にカメラは動き出します。そしてじっと真正面に構えていたアングルもほんのわずかに斜めに変わり、揺れ始めた主人公の心の動きを見事に映し出していくあたり豊田四郎の演出力量のなせる技でしょうか。

飄々と演じる森繁久弥の姿、やや小憎たらしい淡島千景の存在感、さらにじっと主人の帰りを待つ妻(乙羽信子)の様子が絶妙に作品を盛り上げていて、すばらしい。
女中たちを雇うシーンでのどたばた劇のようなコミカルな演出で観客を引き込み、さらに本物と偽物という骨董品を通じて、人間に対する本物と偽物、人生における本物と偽物というテーマを織り込んでいくストーリー展開。そしてラスト、すべてを知り尽くしたかのように雪の中を去っていく主人公珍品堂主人の姿が何ともいえず蘊蓄があります。まさに傑作ですね。


もう一本が「台所太平記
有名な作家を主人公にその家に奉公する女中たちを通じて、戦前から1960年代あたりまでの時代の流れ、若者たちの心の変化を描いたコメディです。
主人公の作家が森繁久弥、そしてその妻が淡島千景。「珍品堂主人」ほど技巧的なカメラアングルも使わず、淡々と撮った作品ですが、時代の流れに飄々と自分を会わせていく主人公の姿、時代の変化にとまどいながらも、その場その場をしっかりと自分を合わせていく賢い妻と森重久弥、淡島千景の演技が何ともすばらしい。

しかも女中たちの役に森光子、乙羽信子京塚昌子池内淳子大空真弓中尾ミエなどなど今では大女優の名をほしいままにしている人たちが、まだうら若い女たちを演じ、見事にその時代時代を見せていく様はなんとも見事というほかありません。しかもこれだけ個性的な女優人を脇に構えても全くその存在感が薄れない森繁久弥淡島千景の力量にも拍手したいです。

古風な女から、次第に現代的なモダンガールへと次々と女中たちの姿が変遷し、それを補うように挿入される背景シーンが時の流れを見事に作り出していき、いつの間にか白髪が交じって老いていく森重久弥の存在が、夫婦の哀愁さえも写しだし、ラストシーン、森繁久弥淡島千景の夫婦が神社の石段を登りながら「そろそろアパートにでも移りますか」というせりふが何ともほのぼのと暖かく感じてしまいます。

「珍品堂主人」ほどの完成度はないかもしれませんが、軽快でコミカルな展開のおもしろさはまさに豊田四郎監督らしい見事な演出だったと思います。