くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ゴールデンスランバー」

ゴールデンスランバー

とにかくおもしろかった。導入部分のつかみからいっきに本編に引き込まれ、軽快なテンポの中で、モダンなサスペンスが展開する。まさに伊坂幸太郎の世界である。
宣伝フィルムでは首相暗殺のぬれぎぬを着せられた主人公の逃走劇で、巻き込まれ型のサスペンスミステリーのような社会ドラマを想像させられるが、始まって15分もすると、それが全然違うことに気がつく。

スーパーにやってくる竹内結子扮する樋口晴子とその娘、そして大森南朋扮するその夫。
この導入部分からすでにこの物語の伏線が始まっていることがラストで気がつくのですが、ここでは全く思いも寄りません。
タレントをとっさの機転で命を助けたことで一躍有名になった主人公青柳雅春(堺雅人)が地元仙台に戻ってくるところからいよいよ本編が始まる。
交差点でかつての学生時代の同級生森田森吾(吉岡秀隆)と会い、彼の車で軽くファーストフードを食べる。「まぁ飲め」という言葉で青柳は森田に進められるままにペットボトルの水を飲む。突然眠くなり目が覚めると首相の仙台訪問の雑踏のそばに車がある。そこで森田はいきなりシリアスな告白をする。

この導入部分から一気に物語は青柳の逃走劇に変わるのであるが、機転と運の良さでまずは逃げ始めたものの息詰まると次々とかつての友人や仕事場の同僚など魅力的な人物が接触してきてはピンチとラッキーを繰り返していく。
伊坂幸太郎作品にはまり役で「アヒルと鴨のコインロッカー」でも好演した濱田岳が異常な殺人鬼であるにもかかわらず、抜群の運動神経と頭脳で主人公を助けるキルオを演じるなど、つぎつぎと見所満点である。そしてこのキルオが物語から消えると次に柄本明扮する奇妙なおっさんが登場する。次第に青柳の学生時代からの同級生や元彼女が絡んできて、クライマックスへ向かう下りの何とも魅力的なこと。もっともっと、終わってほしくない物語。こんな感覚久しぶりに味わいました。

絡んでくる人物たちの非現実的ながら魅力満載の設定。一見、くそまじめな社会ドラマのような不気味さを漂わせる警視正役の香川照之のおもしろさ、そしてターミネーターのごとき永島敏行の存在感。シリアスでいて、コミカル、そしてモダンな展開。
また、「アヒルと鴨のコインロッカー」の中村義洋監督ならではの抜群のセンスの良さは、シーンの背後に次々と流れる最高の効果で盛り上げる音楽の数々である。音楽が作品にリズムを生み、リズミカルにスリリングな逃走劇が展開する。時に非現実的でありながら、こんなことあってもいいじゃないと思わせる説得力もある。まじめに作ればまじめな映画になるところを笑い飛ばしながら、胸にあつく感動させる奥の深い脚本と演出の妙味。本当におもしろかった。

最後の最後まで目を離せないストーリーの完成度、ファーストシーンから始まる様々な伏線とせりふが、最後まで決して死んでしまわない。全編にちりばめられたウィットの数々が、いつの間にか観客をハッピーにしてくれる。いい映画というのは劇場をでるときにこんな感覚にしてくれる映画だと思います。