くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ずっとあなたを愛してる」

ずっとあなたを愛してる

この映画、全体に非常に色彩の変化に心が配られています。そして、色の変化がそのまま物語の変化、主人公の心の変化、主人公を取り囲む周りの人々の変化を表現しているのです。

まず、空港で主人公ジュリエット(クリスティン・スコット・トーマス)が妹レア(エルザ・シルベルスタイン)との待ち合わせているところから始まります。空港の待合い場所ですが、非常に殺風景な色彩と、ジュリエット自身、刑務所をでてきたばかりという設定なので化粧気もなく殺伐とした表情をしています。そこへ現れるレア、二人は車に乗りレアの家に向かいます。終始ほとんど口を利かないジュリエット。

家に着くと、かわいらしい養女プチ・リスが飛びついてきます。この女の子が何とも物語の中で潤滑油のような役割を演じて愛くるしい。しかも非常にピュアな気持ちで影のあるジュリエットに話しかけ、次第に心を開かせていきます。

服装、化粧、表情、そして周りの景色さえも、意識的にモノクロームに近いような色で統一したシーンが続きますが、やがて、ジュリエットの心が和らいでいくにつれ、色彩が現れてきます。それとともに、彼女の周りにいる人たちの姿が多くなってくるし、声のざわめきもしだいに大きくなってきます。このあたりの演出が大変微妙で、その変化に応じて、ジュリエットの周りの人物たちも次第に心が温かく、感情がジュリエットに伝わり始め、やがて心の交流が本物になっていきます。

始まってすぐ、行きずりの男とSEXするも、全く満たされないにもかかわらず、物語が進んでいくと本当の恋心がジュリエットの周りに漂い始め、子供殺しで刑務所にいた妻の姉ジュリエットを疎んじていたレアの夫も心を開いていくあたり、みている私たちも心が和み始めていくのです。

なぜ子供を殺したのかという謎を最後まで引きずりながら、ジュリエットの境遇、刑務所へ行くまでの職業などそれぞれの背景をさりげないせりふやショットで説明していきながら、すこしずつ物語に深みが増していく演出は何とも卓越しているといわざるを得ません。
そして、最後の最後になって、試用期間であった新しい仕事も正式雇用が決まった日、お祝いのシーン、それに続く子供殺しの真相、そしてレアとジュリエットが二階で姉が子供を殺した本当の理由に涙し、寄り添っているところへジュリエットに恋している好感なレアの同僚ミシェルが玄関にきて彼の声が聞こえます。
「ジュリエット!ミッシェルだ・・・」
その声にジュリエットが
「わたしはここにいます・・」
と終わるエンディングの見事さ。やはり映画もどこで終わらせるかが名作になるかならないかのポイントだと納得するラストでした。

物語的には好みではないのですが、作品としては一級品でした。