くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ジュリエットあるいは夢の鍵(愛人ジュリエット)」(4Kデジタルリマスター版)「SHE SAID その名を暴け」

「ジュリエットあるいは夢の鍵」(愛人ジュリエット)

主人公の心象風景を映像にしていくいわゆる幻覚を描くストーリーですが、どこか古臭さを感じるのは表現方法ゆえか、物語ゆえか。でも、これはこれで楽しめる一本でした。監督はマルセル・カルネ

 

監獄のカットから、看守がある一室を覗く。カメラが入ると、主人公ミシェル。眠れなくて目を開けたままである。隣の囚人はミシェルに語りかけたあとやがて眠ってしまう。ミシェルも目を閉じるが、ふとあかりに目を覚ますと監獄の入り口が開いていて、外に出ると緑の森の向こうに村が見える。しかし、出会った子供や、山羊と一緒の婦人、すれ違う男に聞いても村の名前はわからない。実はミシェルは、恋人ジュリエットと海に遊びにいくため、雇い主の金を奪って投獄されたのだ。ミシェルはジュリエットが今も恋しくて探していることを思い出す。

 

村に入ると、告知人という男が出てきて、捜索人ジュリエットに心当たりはないかと大声を出してくれるが。誰も覚えがない。この村の村人たちは過去の記憶がないのだ。ミシェルは近づいてきた男についていくと、ジュリエットはすでに死んでいるという。そんなわけもなく森を探しに入る。そこでミシェルはジュリエットと再会。しかしジュリエットの記憶からミシェルは消えていた。やがて通りかかった男の馬車に乗り城へ行ってしまう。ミシェルが後を追いかけると、ジュリエットは城の城主に監禁されているようで、どうやら城主は次々と妻を殺す青髭だと判明。

 

ミシェルは村人たちと押しかけるが、おりしも城主とジュリエットの結婚式だった。必死で訴えるミシェル。ジュリエットの記憶が戻り、ミシェルの元へ戻るかと思われた時、夜明けを知らせる監獄の鐘が鳴りミシェルは目を覚ましてしまう。ミシェルは看守長に呼ばれて行ってみると、ミシェルの雇い主が起訴を取り下げたので釈放だという。雇い主とは青髭と同じ人物だった。

 

ミシェルはジュリエットの部屋に忍び込む。ジュリエットはミシェルの雇い主と結婚が決まっていた。ジュリエットが戻ってくるがすでに気持ちが戻らないことを知ったミシェルは部屋を後にする。ミシェルの後をジュリエットが追いかけてくる。ミシェルは、路地奥にある危険と明記された扉を見つめる。意を決して扉を開けると、そこは森の奥に広がる忘却の村だった。ミシェルは晴れやかな顔で村へ向かって映画は終わる。

 

アンリ・アルカンのカメラが美しく、クライマックス、階段を駆け降りるミシェルとジュリエットの陰影を交えた場面は絶品。ジュリエットとの思い出を忘れようとするミシェルの切ない悲恋物語が胸に迫る作品でしたが、今見ると、ちょっと古さを感じます。

 

「SHE SAID その名を暴け」

最初に、権力を傘にきたセクハラなど絶対にやってはいけない事だと思う。その上での感想になります。いくら事実を元にしているとはいえ、映画になった時点でフィクションであり、商業映画なら面白くできていなければいけない。この映画は緊迫感は半端なく最後まで持続するし、主人公たちの迫真の演技は見事ですが、人物整理がやや独りよがりになっていて、一時整理する場面はあるものの、それぞれの証言者の心の動きが後一歩見え辛い。それと、完全に一方的な視点から描いたために、全体がちょっと薄っぺらくなってしまった。難しいところですが、映画としてもう少し脚本を練るべきだったかもしれません。ただ、暴露物としてはそれなりに面白い映画でした。監督はマリア・シュラーダー。

 

犬の散歩で森を進む一人の女性が、映画のロケ現場に出くわすところから映画は幕を開けます。次のカットで、衣服を抱えて、街を泣き叫びながら走る彼女の場面につながる。このオープニングが実に上手いのですが、この後、トランプ大統領の選挙戦を取材するニューヨークタイムズの記者ミーガンの姿からなし崩しにどうなったかわからないままに、出産のために一時休暇になるあたりまでを描くところが少し雑で、前知識なかったら、トランプ大統領を批判する映画かと思ってしまう。

 

ニューヨークタイムズの記者ジョディは、ある事件を追っていた。それはミラマックスという映画会社の総帥ワインスタインによる性的虐待の事件だった。ワインスタインは、自社に属する女優やアシスタントを強引に誘い、セクハラをした上で、示談金で黙らせるか、仕事ができないように干してしまうか、横暴を極めていた。しかし、ジョディの取材に答えてくれる被害者はなく、前に進まなかった。

 

出産後、やや鬱気味だったミーガンは職場に復帰する事で、体調の回復を計らおうとし戻ってくる。そしてジョディと組んで、ワインスタインのセクハラ事件を追い始める。被害者に接していく中で見えてくるのは、強引に隠蔽されてきた業界の暗部だったが、この辺りの描写は実に弱く、個人攻撃に終始する。ミラマックス社の財務担当や弁護士に聴取を繰り返して、さらに被害者にも接していくジョディとミーガンは、次第に核心に近づいてくる。

 

被害者の一人ローラは乳がんが見つかり手術を目前にしていた。彼女はミーガンらの取材に一時は断るものの、意を決して実名を出す許可を与える。実は被害者達はローラを除いてみな示談の際に秘密保持契約を結ばされていて発言できなかったのだ。そして、関係者の証言もまとまり、信憑性のある告発記事が完成し、ついにワインスタイン本人と対峙する事になる。それでもはぐらかそうとするワインスタイン。記事への反論を待つミーガン達に、ついにワインスタインの反論文が届き、ミーガン達は記事を完成、公開となる。こうして映画は終わる。

 

緊張感が途切れることはなく、証言を求める主人公達の鬼気迫る姿が最後まで退屈を感じさせない出来栄えになっているのですが、ストーリー展開の構成としてはやや独りよがりに走っている部分があり、自分たちはわかっているが第三者はついていけないと思わせる流れになっている。業界の問題を訴えるべきが、個人攻撃にひたすら終始する展開で、あくまで一方的な視点で描いた暴露映画という仕上がりの作品でした。