ヌーヴェルヴァーグの作品で最も成功した一本とフランソワ・トリュフォーに言わしめたジャック・ロジエ監督の長編デビュー作を見てきました。
モノクロームですが、ヌーヴェルヴァーグ特有の即興演出による躍動感あふれる青春映画を堪能しました。
物語はテレビ局のカメラマンの助手(といっても雑用係ですが)ミシェルという青年と彼がナンパした二人の女性リリアーヌとジュリエットとのひと時の恋のヴァカンスを描いた作品です。
冒頭、アルジェリア戦争が6年目を迎えた1960年という背景のロゴが出るところから、いわゆるフランスが直面していたどこか暗澹たる時代を描いているように見られますが、兵役を3ヵ月後に控えたミシェルにはその暗さはまったく見られず、兵役に行けばどうなるかわからない状況にもかかわらず、今を楽しむべく女の子と遊ぶことを一番に考えている様子がなんともご陽気ですがすがしい。
勤め先のテレビ局で知り合った二人の女の子を物にせんとあくせくする一方で、この二人の女の子たちもそれぞれにいかにして適当に遊ぶかを虎視眈々と知恵を出し合っている様子がなんともほほえましい。
題名の「アデュー・フィリピーヌ」は彼女たちが恋愛ゲームのスタートでどっちが先にミシェルをとるかを決める合言葉として用いる言葉であるが、この合言葉が交わされるまでを登場人物たちの紹介場面として描き、この言葉から一転していまにもくだけそうながら必死で青春を謳歌しようとする男女のラブストーリーに入り込んでいく展開は、とても即興演出と思えないほどに見事です。
特に背後に流す音楽が実にリズミカルで、まるで頭の中に流れる音楽のリズムに乗って若い男女の物語がつづられていくかのごとくで、その時々にふっと無音のシーンを細かく挿入したりして画面転換にもリズムを創り出していくジャック・ロジエの演出は天才的ともいえますね。
いままでメジャーに紹介されなかったのが不思議なくらいの完成度の高い青春真っ只中といえる秀作で、ラストシーン、突然の召集令状にあわただしく船に乗るミシェルをいつまでも見送るリリアーヌとジュリエットの姿がなんともいえない切なさをかもし出してくれます。いい映画でした