くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「楢山節考」「おかあさん」

楢山節考

木下恵介監督版の「楢山節考」を久しぶりにみた。
今村昌平版よりやはり格段にすばらしいできばえである。日本の様式美を徹底的に追及し、歌舞伎の場面転換の手法やオールセット室内撮影による光の演出にこだわり、舞台をみているかのように思わせながら、映画ならではの奥深い構図や動きでストーリーを進めていく。

背景にある、人減らしを生んだ極度の貧困、それに伴って生まれる、食に対する純粋な主題を徹底的に掘り下げていった演出は圧倒されてしまいます。

飯をよそうにもめいっぱいの動作で思い切り乱暴によそい、それをかき込むシーンが何度となくでてくる。さらに貧しいながらも出される添え物のおかずをじっととらえるカットが、食の美学を沸き出させるように画面に表現されてきます。
背後の景色はすべて書き割りですが、それがこの物語にファンタジックな装いを生み、色彩を光や照明で演出した徹底した日本様式の世界が何とも郷愁をたたえて、素朴な中に人々のかつての生活の息吹が漂います。

もちろん、今村昌平版も見事な作品ですが、やはり木下恵介版の徹底した美学にはさすがに追いつかないと思います。


もう一本は成瀬己喜男監督の「おかあさん」
昨日みた「銀座化粧」と同時期の作品である。

戦災ですべて失ったもののようやく、生活を取りもどした洗濯屋の一家族の生活を切り取ったいわゆるホームドラマである。

個人的には「銀座化粧」のほうが作品的には完成されていると思いますが、この「おかあさん」は取り立てて秀逸なシーンはみられません。淡々とつづられるひとりのおかあさんとその家族、そして周囲の人々のドラマは、当時の人々の心根、さらに世相を見事に映し出されています。
そこには、家族の死があり、手に職をつけようとする女性の考え方の変化があり、結婚に対する若者の意識の変化が表現されています。まさしく、当時の時代の流れをスクリーンに描いた作品といえるでしょう。

この作品も子供の使い方に、ストーリー展開へのアクセントを持たせるという「銀座化粧」同様の演出がなされていますが、さりげないカットの数々が非常に凡々とした物語を紡ぐ中で、リズム感を生むきっかけになっています。
とはいえ、ある家族のある時期の断片を切り取ったドラマはやはり小津安二郎の方が卓越しているように思えますね