くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「流転の王妃」「まごころ」

流転の王妃

流転の王妃
女優田中絹代が監督を務めた作品で、満州国の皇帝の弟の妃となって嫁いだ竜子の波乱の半生を描いた人間ドラマである。

第二次大戦前後の暗雲立ちこめる歴史が背景になるために自然と物語は重苦しくなるが、京マチ子の圧倒的な存在感が物語を牽引していきます。
解説では秀作ということでしたが、個人的には特に取り立てるほどの作品ではなかったように思います。
当時の時代を丁寧な演出で重厚な人間ドラマとして仕上げた作品としてはそれなりの成功品だと思いますし、そう考えると女優としての田中絹代のみでなく、監督としての才能も十分にあった人であったと納得しました。

ポイントを娘英正におき、その死をファーストシーンに持っていって、物語を回想する展開でストーリーが進みます。
中国と日本がかくも戦わねばならなかったことへの疑問、そして、人と人とのつながりの大切さを思いを込めて描かんとしたのでしょう。中国人も日本人も取り立てて悪人に描いていないところは田中絹代の考え方を反映しているようで好感度ですね。
制作された時代を考えると、みておくべき作品の一本だと思います


もう一本は「まごころ」
小林正樹監督作品第二作目である。しかも脚本に木下恵介がはいり、非常に良質な物語に仕上がっていました。

会社の重役である裕福な家庭とその向かいに越してきた貧乏でしかも肺病で薄幸の少女と姉の家庭を交互に描きながら、裕福な家庭の長男と薄幸の少女のプラトニックなラブストーリーを物語の中心に展開していきます。

時にそれぞれの家庭の様子を好対照に描き、それぞれの登場人物を適度な配分で人物描写していく展開のうまさはまさに脚本のできばえによるものでしょうか?もちろん、小林正樹監督の演出も秀逸で、冒頭のラグビー練習のシーンの躍動感が、本編の家庭ドラマの世界との対比で見事なリズムを生み出し、さらに挿入されるピュアなラブストーリーのストレートさがさらに物語に深みを与えます。

貧乏な家庭に見え隠れするできの悪い叔父の登場も長すぎず短すぎず、全体に影響を与えないほどに程良い登場もみごと。一方の裕福な家庭の父親の存在も添え物程度ながら必要十分な存在感を見せる。姉の結婚もストーリーの中で絶妙なバランスで登場する。

季節の変遷を巧みな映像表現で補いながら、ステロタイプ化したそれぞれの家庭を丁寧に描いて嫌みにならないほど良さがみごと。
一流の俳優陣を配したこと、練り込まれた脚本、デビュー間もない新鮮な演出と、それぞれのバランスが見事にくみ合わさった秀作であったと思います。これは掘り出し物でした、