くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「オーケストラ!」「田園に死す」

オーケストラ!

この映画はコメディという寓話を借りた美しいヒューマンドラマである。チャイコフスキーをはじめとするクラシックの数々、さらには民謡さえもが絶妙のリズムを生み出し、流麗な音楽のごとき見事なカメラの動きが絶妙のハーモニーとなってこの作品を引き立てます。
物語さえもがまるでひとつの協奏曲のごとく一つ一つのエピソードが重ねられていて、それがそれぞれに奏でる笑いと感動そして激動の時代のストーリーとなってスクリーンを覆っていく。

久しぶりにクラシック音楽で身動きできないほどのラストシーンを味わいました。思えば「冬の華」(これもチャイコフスキーのピアノコンチェルトでした)で、画面から沸き起こるクラシック音楽に胸が破裂するほどの感動を覚えて以来です。

物語は宣伝で何度も紹介されているように、ソビエト共産主義時代に天才とうたわれた伝説のマエストロアンドレイが今の職場であるボリショイ楽団でたまたま手にしたパリからの楽団の招待状を、かつて離散した自分の楽団を再結集して、いわゆる偽って演奏しようと四苦八苦する物語。

前半から中盤にかけて、ドタバタとテンポのよいコミカルなシーンで観客をスクリーンから離しません。そしてそんな笑いの中にちらほらと見え隠れするかつての共産主義時代の悲劇、そしてさらにアンドレイ自信に隠された物語。さらに、カメラの動きが非常に美しく、一見平凡に捉えているシーンが、すーっと流れるように被写体に近寄っていくリズム感がたまらなく魅力的。

そして、もう一転、アンヌ=マリー演じるメラニー・ロランがなんとも魅力的で、むさくるしい楽団のメンバーと好対照に作品に華やかさを生み出していく配役が見事。しかも、その美しさの影にある悲しい過去が、いつの間にかアンドレイたちのひたむきな行動と微妙にマッチングしては離れていく展開が不思議な感情へと私たちをいざなってくれます。

物語の構成が、カメラワークが、そして俳優たちの演技がどれもこれも見事に調和してクラシック音楽を筆頭にしたハーモニーとマッチングしていく完成度の高い映像は、ところどころの粗さえも帳消しにするほどのすばらしさがある。

コミカルなシーンから後半三分の一あたりで障害にぶち当たりシリアスな展開が長すぎず短すぎないシーンで繰り返され、そしてクライマックス、「レアのためにもどれ」というメッセージの元に一気にクライマックスへ引き込み見事さ、そして奏でられる12分間の演奏シーンでとめどない涙を生み出すべく語られる真実の物語。クラシックに造詣はありませんが、それぞれの曲の盛り上がり部分が見事にストーリーを盛り上げるというストレートに演出されたラストは傑作シーンと呼べると思います。

もう一度、もう一度みたい。そんな映画がこの「オーケストラ!」です

田園に死す
寺山修司の映像詩の中でも傑作の部類に入る作品らしい。
とはいえ、昨日みた「さらば箱船」より最初のところストーリーが飲み込めなくて苦労した。

物語は恐山、そこのとある村の一人の少年が主人公である。登場人物それぞれが白塗りの顔で、次第にわかるのであるが、これは現代の私が制作している映画の場面なのである。そしてその少年こそは20年前の自分の姿なのだ。
私が描いていく過去の自分の姿は偽と嘘の固まりで虚構の世界である。幼い日、彼は母と二人暮らし、隣の嫁いできた若妻があこがれの女性であった。

例によってめくるめく幻想のごとく次々と映像が縦横無尽に展開していく。この作品でも時計が冒頭でストーリーを牽引する役割を担っている。壊れているのか意味があるのか鳴り続ける柱時計。そこから生まれる時間の物語は過去と現代を結ぶシュールな世界の案内役でもある。
畳をめくると恐山が現れたり、不可思議なサーカス団が登場したり、サイケデリックな映像が次々と物語を紡いでいく。

前半あたりで突然試写室のシーンになり現実の私が登場。ここまでの物語が映画のシーンであることが示される。

そして、過去の自分に会いに行く現代の私。そして二人が出会うことで現実の少年時代が記憶にあった理想的な頃であったのは嘘であることが明らかになっていく。すべてが、頭で作り上げた少年時代の夢の世界であった。
そして、何もかもが幻想であると気がついたところでまたもや20年前の自分と現代の自分が将棋をする。このあたり「さらば箱船」同様に思われる。

安類も陶酔感さえ覚えるシュールな映像世界であるが、一貫したストーリーが次第に見えてくる演出力は見事なものである。そして、紡いでいく映像美学の世界は一つ一つがどこかしら意味をなしてくる不思議な魅力を備え、寺山修司のオリジナルワールドが人並み以上であることを証明して見せてくれるのです。
人によってははまってしまう不可思議の世界。何度も見直してみたくなる芸術世界を本日も堪能しました