くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「天才スピヴェット」「デビルズ・ノット」

kurawan2014-11-21

「天才スピヴェット」
うまい!思わずうなってしまう見事なストーリーテリング。監督のジャン=ピエール・ジュネの才能を感じさせる一本だった。

物語は、半永久機関の仕組みを発明した10歳の少年T・S・スピヴェットのスミソニアン協会まで大陸を横断する冒険物語である。

しかし、ストーリーの中心は、双子で仲良しの弟レイトンが死んでしまったのが自分のせいで、そのために、両親からも疎遠にされているような気がして、罪の意識に沈んでいる少年の傷ついた心の物語なのだ。

表の冒険ストーリーが、繊細な少年心の切ない罪悪感からくる寂しさのお話を絶妙のオブラートのように包んで展開する物語構成のうまさ、映像センスの卓越さ、軽い店舗で流す音楽を含めたリズム感のすばらしさに驚愕してしまうのです。

そして、さらに3Dというメカニカルなテクニックで、さらに追い打ちをかける演出を試みる。全く、ジャン=ピエール・ジュネは天才かもしれない。

映画は、アメリカ西部の牧場にすむ家族。主人公T・Sと姉、カーボーイの父、昆虫研究博士の母と、家族のような犬と暮らしている。一年前、銃の暴発で弟レイトンを亡くしている。

そんなT・Sにスミソニアンから科学賞受賞の電話が入るところから物語が始まる。

ジャン=ピエール・ジュネらしい、ファンタジックなカットの連続と、コミカルな演出が繰り返され、3Dを効果的に使った映像が本当に美しい。

T・Sは両親に内緒でスミソニアンにいくことを決意、こうして彼の冒険物語が始まる。

横断列車に乗り、途中でいろんな人に出会いながら、おとぎ話のようにストーリーが進み、やがてスミソニアン協会へ。そこで、自分こそが半永久機関を考えた本人であると説明すると、当然のように、テレビやマスコミにもてはやされるようになる。

しかし、テレビ出演に突然やってきた母に、ずっと愛されていたことを告げられ、父も迎えにきて、心がいやされたT・Sは家に戻る。

例によって、再び童話のような展開と、母のおなかが大きくなっていることが見せられてエンディング。

手放しで笑うほどのおもしろさはないのだが、淡々と進むファンタジックな演出とリズムが、背後にある主人公の繊細な心を、行間を読むようにスクリーンに映し出した演出がすばらしい。

ラストシーンは、ほほえましい笑いの中に、なにかしら熱い感情が胸に芽生えてきて、映画が終わる。この感覚がとってもいい。必見の一本でした。良かった。


「デビルズ・ノット」
重い。いつも書くのですが、こういう事実を扱った作品、特に、未解決の事件を扱った映画は、ともすると、原作者や製作側の一方的な視点に翻弄され、間違った感想を持ってしまう。しかし、この映画、ここまで緻密に事実を描いていくと、途中から、もういいだろうというほどにしんどくなってしまう。

映画は1993年に起こった、三人の少年の殺害事件。犯人と目され逮捕された三人の未成年の青年は、結局有罪とされてしまう。しかし、裁判の中で、様々な矛盾や疑わしいことが次々とでてきて、もしかしたら冤罪だったのではないかとされたままに、今なお関係者の調査が続いている。

この未解決事件を著書にした原作を元に映画は作られている。監督はカナダの名匠アトム・エゴヤンである。

映画は、殺人現場になった森に入り込むような映像から始まる。カットが変わって、一人の少年が母に迎えにきてもらい帰宅するシーンへ。

この少年が、友達二人と自転車に乗り、森の奥に入ったまま、結局、遺体で見つかるまでが冒頭のシーンとなる。行方不明になる当日の夜、近くのレストランに一人の黒人が血塗れで飛び込んできて、トイレに入るが、警察がつく前に行方をくらますシーンもかぶる。

やがて、悪魔崇拝する青年やその友人、いかにもパンクな青年の三人が容疑者となり、地域の人々は、早く犯人を逮捕してほしいという気持ちの焦りと、被害者の両親も、混乱して、この三人がみるみる、犯人に祭り上げられていく様が本編である。

しかし、死刑という刑罰に反対する一人の調査員ロンが、被告の弁護士と協力して、裁判で提示される証拠や証言の様々な矛盾を指摘していく。しかし、みている私たちには、その指摘する矛盾も、実は曖昧に見えるのである。いや、曖昧に描写してある。

一見、警察や、魔女裁判のごとく翻弄された住民たちによるでっち上げの犯人のごとく見えなくもないが、一方で、冤罪だと叫ぶ側の声もそれほど迫力がない。

そして、緻密なほどに一つ一つ描写されるエピソードの数々が、みている側にも混乱を生み出し、結局、未解決で終わる事件故に、その後がテロップで流れても、どっしりとした気持ちが残ってエンディングになる。

確かに、しっかり作られている。隙がないし、事実を忠実に見せていく映像はなかなかであるが、いかんせん、重い。