くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ヒーローショー」

ヒーローショー

こういう荒削りなバイタリティだけの映画を作れる人は井筒和幸監督くらいしかいないですね。
パッチギ!」ほどまとまりはありませんが、これでもかこれでもかとぶつけてくるようなストーリー展開と、即興に近いような演出とせりふの応酬、あるようでないような人間ドラマ、すべてに若者たちの行き場のわからない生き様が反映されている映画でした。

たまたま、知り合いの女の子と寝たために訳のわからないチンピラから脅され、それを相談した友人の兄貴がまたやばい兄ちゃんで一昔前のようなタイマン勝負へと発展する。で、何を間違えたか一人を生き埋めにする羽目になり、それぞれ関わった青年たちにそれぞれの生活と夢があるのだが、それもまたその日限りだったりする。

どうするどうするとあたふたする彼らの姿は、まるでこんな事件がなくても日常の中に常に現れては消えるもがきと同じ感覚。そんな中でそれとなく出口が見えるかと思えばそれも見えてこないやるせなさが、吉本芸人出演による即興のごとき展開で飽きさせないおもしろさもある。

しっかりと物語を追いかけたり、それぞれの登場人物のドラマをしっかりととらえて感動しようかなんて思うと全然方向違いの方向へ行ってしまう不思議な映像感覚。ある意味、井筒監督の独りよがりの適当映画のようにも見えなくもない。でも映画がエンディングを迎えてピンクレディの「S.O.S」が流れてくると、今見終わった映画のストーリーがジワリとよみがえってきて、何ともいえない切なさと歯がゆさが入り交じった感覚にとらわれます。

「ガキ帝国」以来井筒監督の作品は好きなのですが、いくつになってもやんちゃ坊主のような作風は衰えることはなく、時に生々しいほどの傑作が生まれたりするかと思うと、どうしようもない凡作が生まれる。そんな新鮮そのものの感覚を持った井筒監督の力量というのが、今回の映画でも十分発揮されていたように思います。

映画としてのできばえはまぁ中くらいかなと思いますが、個人的には大好きな映画です。今も「S.O.S」が頭から消えません。