くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「インセプション」

インセプション

クリストファー・ノーラン監督作品となれば期待せざるを得ない。宣伝フィルムが流れたときは目をつむって、先入観を持たないように努力した甲斐もあってか、本当に楽しめた。いや、別に宣伝フィルムを見ていても十分楽しめたと思う。期待以上の一級品の娯楽作品でした。

夢の中に入って、隠し持っている記憶の中からアイデアを盗み出す国際スパイエージェントの主人公のコブ(ディカプリオ)、彼には愛する妻を死に追いやってしまった過去と、残された子供たちにあえないという指名手配犯の姿もある。そんな現実を一掃するチャンスを持ってきたのが日本の実業家サイトー(渡辺謙)。ライバル企業の後継者に潜在意識を埋め込んでほしい、つまりインセプションしてほしいというもの。それは非常に危険なミッションだった。

めくるめくアイデアとシュールとリアルの微妙なバランスの美術セット、そしてサスペンスフルながら、至上学的な内容になるストーリー展開と、様々な方面から張り巡らされた伏線で見る者をミステリアスな映像世界へ引き込んでくれる素晴らしい映画でした。

とにかくサスペンスとしてのおもしろさは絶品で、それが妙に複雑になりすぎずに物語についていけるほどの限界に近い複雑さ、張り巡らされる伏線の数々も、夢か現実か観客の判断に一任するお遊びさえもが作品を引き立ててくれます。

出だしは、波間に打つあげられる主人公の姿、そしてとある部屋の中に高齢な一人の男の前に連れて行かれるファーストシーン。それに続く、サイトーからの依頼を受ける資格があるかを試すショットが続いて、ミッションが持ち込まれる冒頭シーンまで、一気に映画の背景と、人物関係が描かれていきます。タイトルはいっさい流さず、サイトーがかたる「インセプションをたのみたい」という言葉で説明される。

そして、ミッションを遂行すべくスタッフを集める下りはまさしく娯楽映画の王道ともいうべきおもしろさ、そこに登場するマイケル・ケイン扮するその道の権威マイルズが、また意味ありげで、ラストに光るからおもしろい。

大好きなエレン・ペイジが扮する設計士アリアドネが見せる夢の中での設計場面(宣伝フィルムに多用されているシーン)も一気にこの不思議ワールドに引き込むのに十分なエンターテインメント性があります。このあたり本当にうまいですね。
そしていよいよ本筋に入って、ミッションが始まると、時間とスピードの追っかけ合いのようなハイテンポな画面が次々と展開し、夢の第二段階、さらにその奥の深層心理までへ進む展開の一方で明かされていくコブの妻モル(マリオン・コテイヤール)の死の真相が見事にストーリーにとけ込んで、それがラストを効果的に盛り上げていく様も見事。

夢の中で負傷したサイトー、第一段階の夢の中で橋を落ちていく車、そのタイムリミットで緊迫性を持たせながら第二段階さらにその奥の深層心理で進むサスペンスフルな物語は手に汗握ります。

そして、見事ミッション終了、旅客機の中でそれぞれが目覚め、そして空港で別れ、すべてうまくいったかのようにマイルズがコブを出迎えて、無事子供たちと抱き合う。しかし、夢と現実を見分けるコマがテーブルの上で回り、現実なら転がり夢なら回り続けるというキーワードが微妙なところで映画は終わります。後はみなさんの判断で・・というわけですね。

2時間30分以上ある大作ですが、しかも複雑なストーリーですが、全然飽きさせないおもしろさを堪能しました。