くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」

kurawan2010-08-30

カルトムービーの傑作として紹介される石井輝男監督の代表作品。江戸川乱歩原作の数編の物語を一つにした物語である。

全く、奇怪な映画である。江戸川乱歩原作らしいおどろおどろした不気味な展開であるが、そこに石井輝男のグロテスクな感覚が映像として具現していく。そこにあるのはまさに目を背けたくなるような悪趣味な異次元の世界といわざるを得ない。

物語の舞台を大正に設定、とある精神病院の一室から物語が始まります。発狂した女たちが上半身むき出しに檻の中で狂い踊る。その中で翻弄されながら右往左往する一人の男。この男が主人公人見広介である。
気違いやら精神病院やらと今となってはおそらくテレビ放映は絶対できない禁止ワードが連発である。

あわやのところでこの病院を逃げ出した広介は自分の記憶にもある歌で、病院にいた時に外からも聞こえていた子守歌を歌う少女に出会い、自分がかすかに記憶している断崖の景色の絵を併せて、今まで自分の記憶の隅にあった謎を解きにかかる。しかしその少女は何かを告げようとしたところで広介の目の前で何者かに殺されてしまう。

ところが、ふとした偶然で自分のうり二つの大富豪の男菰田源三郎 が死んだ記事を目にし、その男にすり替わることにする。この男こそ、広介の謎を解く鍵を握っているかに思えたからである。かなりストーリーの展開は荒いのであるが、そんなことはおかまいないなしという荒っぽさはいわゆるB級映画の典型ですね。

死者がよみがえったかのようにすり替わった広介はうまくその家に入り込むが、次々と不気味な出来事が起こる。主人公が噂に聞いていた父丈五郎が無人島に作っているという不思議な世界を確認すれば、その謎も解けるのではないかと思った主人公はその島へ乗り込むことにする。しかし主人公がそこでみたものは、奇形人間をつくり、正常な人間を奴隷にする世界を作らんとする丈五郎の狂った姿だった。
それは、自ら生まれながらに手に水掻きがあるという奇形出会ったために人々から蔑まれたことへの復讐であった。

シャム人間を人工的に作ったり、水中を泳ぐ魚人間や人間と四つ足動物の合体人間などを侍らしながら暮らす丈五郎の異常な世界が描かれる。丈五郎に扮したのは舞踏家の土方巽という人で、踊るように語る自分の狂気の世界の場面は圧巻。また、石井監督の描写の中にグロテスクさと異常なエロティックさを混在させた感覚は人によっては目を背けたくなりそうな映像である。
しかも丈五郎は長男に家を継がせ次男に医大へ行かせて医者にしてから自分の奇形人間づくりを手伝わせる計画だった。そしてその弟こそ広介だった。

しかし、ことが今にも達成せんとしたところへこの家に入り込んでいた明智小五郎が登場、ことの真相を暴露していく。
結局、丈五郎は自殺し、洞窟につながれていた先代の妻も泣き崩れ、妹と知らず情交を交わし恋仲となった主人公は二人して人間花火で心中する。空に舞う花火、飛び交う首、ちぎれたお互いの手がしっかりと手をつなぐショットなど悪趣味といっても言い過ぎではないショットが夕日を飾る。死んでいく丈五郎、泣き崩れるその妻、見つめる明智小五郎たち、なんともいえない悪趣味な作品といわざるを得ません。これがカルトムービーなのでしょうね。