くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「丹下左膳余話 百万両の壺」「幕末太陽傳」

丹下左全余話百万両の壺

丹下左膳余話 百万両の壷」
久しぶりに見直しましたが、やはり何度みてもダイナミックな演出と繰り返しによるウィット満点の笑いの醍醐味に終始にこにこしながらみれる娯楽映画の傑作でした。

三味線の音色が不思議なほどモダンに聞こえるし、一見強面の丹下左膳と一筋縄で行かないような女将が一人の男の子にほだされて、右往左往する姿も何ともユニークで人情味満天。その暖かさに楽しい笑いがはめ込まれるといつの間にか浮き世の悩み事なんか吹っ飛んでしまう魅力があります。

山中貞雄の奥の深い豪快なカメラアングルと、さりげなく繊細な演出がさらに映画の中身に膨らみを加えて、単なるチャンバラ映画の域を一回り越えたスケールの大きさに脱帽してしまう。
とにかく楽しくて、心が暖かくなってくる。人の情けっていいなぁとつくづく、そしてしみじみ感じ行ってしまう。これもまた日本映画の傑作の一本ですね。何度みてもすばらしい。


幕末太陽傳
日本映画史に光輝く川島雄三監督の傑作、とうとうみました。
全く評価通りの傑作でした。走り出したら止まらない、次から次とプロットからプロット、シーンからシーンがオーバーラップしながら駆け抜けていく小気味良い演出は絶品、しかも一つ一つのショットが実に斬新でモダン。時代劇であって時代劇でない。しがらみもなにもかもが娯楽の渦の中に巻き込まれて、ウィットに富んだ笑いとしゃれた展開に息つく暇もない。その上、はっとするような美しいシーンや画面の構図が挿入されるや、これこそ、映画としての絶品とうならざるを得ませんでした。

物語は落語のエピソードを元に川島雄三がオリジナルに組み直したお話です。
映画が始まると、走り抜ける武士たち、その一人が落とした包みを主人公佐平次が拾い上げ「世の中物騒だね」とつぶやいていきなり画面は電車の線路。そして現代の品川の説明がなされタイトルが写されていく。

タイトルが終わると、時は幕末の品川、とある遊郭に友人と遊びに来た主人公たち。それぞれがほとんど文無しの様子であるが、俺に任せておけといわんばかりに佐平次が焚き付け、女郎遊びに興じ始める。そして、一夜があける前に友達を帰し、勘定を請求にきた使用人を煙に巻いて、次々と持ち前の機転と頭の回転でこの店に住み着き、次々ともめ事を解決していく。

そんな中で小銭が貯まる一方、重宝がられて、女郎や主人たちからもてはやされていく。軽妙の極みで演じるフランキー堺が絶品の演技を見せ、周辺のわき役さえもがストーリーに彩りと深みを与えてくる。しかもしゃれっ気満天のエピソードがちりばめられた中を駆け抜けていく主人公の世渡り術のおもしろさは、一度引き込まれると息もつかせないスピード感がある。

時折、肺病病みのような咳をし、顔色も悪い様子と薬を常用する佐平次の姿がどことなく哀愁を帯びるかに思えるが、気がつくと笑いのペーソスの中で走り回っている佐平次がすぐにところ狭しと画面をにぎわすので、狐につままれたようになってしまう。

それなりに長居をした主人公は夜中、人知れず遊郭を逃げ出し、「まだまだ死んでたまるか」と笑い飛ばしながら夜の彼方へ走り去るラストシーンは芸術的ともいえる画面の構図と、あっけらかんとした主人公の豪快なせりふとが見事にマッチした名場面と呼べると思います。これぞ傑作。掛け値なしの一本でした。