「怪猫呪いの壁」
平凡な怪談ものかと思っていたら、思いの外傑作でした。ストーリー展開がスピーディで面白いし、フィルムの特性を利用した光と影の恐怖演出が実に多彩で、そしてその編集が見事でワクワクしてくるし、特に後半のクライマックスに至ってはもう一度見てみたくなるほど素晴らしい。見て良かった映画でした。監督は三隅研次。
とある藩、権力を握ろうと画策する五月、田所らが殿に夏江という側女をなんとか入り込ませようとしている場面から映画は幕を開ける。妻を亡くしたばかりの傷心の殿だが、何事にも気がきく志乃という女中にご執心だった。しかし志乃には渥美という恋人がいた。
志乃を邪魔に思った五月らは、殿の留守の時、志乃と渥美が密会している現場を押さえ、無理強いして志乃を斬り殺してしまう。そして、妻の霊廟の壁に塗りこめてしまうが、そこへ殿の妻が生前可愛がり、志乃も可愛がっていた黒猫が現れたのでその猫も一緒に塗りこめてしまう。志乃には、道場を営む兄喬之助がいた。喬之助は、渥美から志乃が五月らの仲間に襲われたことを知り、田所と五月らの陰謀を探ると共に志乃の居場所を探し始める。
志乃らが亡くなってから黒猫が壁に現れたりする不気味なことが起こり始め、不審に思った五月らは、修験者の葛城玄道を呼び祈祷をし黒猫を封じ込めてしまう。続いて殿の若君を呪術で呪い殺すように玄道に依頼し、若君は病の床に伏せてしまう。喬之助らは若君の病も田所らの陰謀だと判断し、玄道の行動を監視する。そんな頃、殿は医師に見放された若君を救うべく、玄道を場内に招き入れることにする。玄道は若君のそばで最後の呪術を施すべく城にやってくる。喬之助と恋人の梢は霊廟の謎をなんとなく気がつき、喬之助は玄道が壁に貼ったお札を取り除く。
喬之助らは、玄道が場内で呪詛を始めたのを知り、その軒下で呪術のための藁人形を発見、殿に忠信するが信じてもらえない。ところが突然霊廟の壁が破れ、塗り込められた志乃の遺体が現れ殿は喬之助らの言葉を信じる。そして、あわやというところで若君のところへ駆けつけ、玄道らと喬之助らとの斬り合いが始まる。一方、黒猫は五月の体を借りて化け猫となり玄道らに挑んでくる。天井を這い、廊下を飛び、屋根の上に舞い上がる化け猫の大暴れが見事だし、光と影を有効に使った登場シーンも絶品。
そして田所らを捕まえて殿の前に引き出した喬之助だが、老中の献言で、切腹させることになる。そして老中が田所に短刀を渡すが、田所はその刀で殿を襲い、喬之助らに切り殺され、さらに老中も斬られる。実は影の黒幕は老中だったという真相が明らかになる。このラストが見事。こうして、喬之助らはめでたしめでたしで映画は終わる。
おそらく製作された1958年には怪談映画は見下されていたので評価されていなかったのだと思いますが、今見ると、一級品の見事な傑作でした。
「丹下左膳こけ猿の壁」
山中貞雄監督の名作「丹下左膳余話 百万両の壺」のリメイク作品。どこがどう違うのかはわからないが、三隅研次監督の師でもある伊藤大輔監督が多用した移動撮影なども取り入れたダイナミックな作品になっています。書き込まれたストーリー展開の重厚さはさすが、脚本衣笠貞之助という感じです。三隅研次第一回監督作品。
江戸城で、日光の造営事業をどこの藩に任せるかの詮議の場面から映画は始まる。弱小藩ながら力もあり、隠し金があるらしいと危惧する老中たちは、うまく柳生藩に仕事を任せることに成功する。柳生藩では、資金をどうするか思い悩み、長老に問いただすと、こけ猿の壺というお宝があるという。ところがその壺は源三郎の引き出物として持ち出していた。早速源三郎の元へ使いが走るが、折しも、その壺の秘密を聞いた女泥棒お島の手下与吉の手筈でまんまとお島はその壺を盗み出す。
お島は与吉に手渡すが、追手を蒔くためにたまたま出会った少年トビ安に壺を預ける。ところがトビ安はその壺を持って逃げてしまい、一軒の小屋に逃げ込む。そこには浪人の丹下左膳が寝ていた。こうして物語は始まる。
壺を取り戻そうとするお島は柴道場の門弟を使って壺を取り戻すが、またまた丹下左膳の手に渡る。一方、柳生源三郎らも壺を取り返すべく追いかけてくる。源三郎は柴道場の一人娘萩乃と恋仲であったが、柴道場の師範代丹波は萩乃を娶って柴道場を手に入れる計画があった。
こうして、丹波たち、源三郎たち、丹下左膳、お島らと二転三転して壺が行き来して物語は展開していく。そこへ、江戸城で心配する老中たちは十方斎という髭の侍を遣わしせことをまとめようと動き始める。
お島はいつのまにか丹下左膳に惚れてしまい、また左膳と源三郎も男の友情が目覚めてくる。こうして、源三郎と柴道場での大立ち回りに左膳も加わりクライマックスとなる。そして、無事壺は柳生源三郎の元に戻り、丹下左膳とトビ松は何処かへ歩いて行って映画は終わる。
とにかく、一つの壺を巡って二転三転する脚本のうまさは絶品で、山中貞雄版同様、カリスマ的な化け物丹下左膳を演じるのは大河内傳次郎この人しかいないという仕上がりになっているのは見応え十分。面白かった。